阿漕荘の2人
紫子side
「しこさん、大丈夫?」
練無はココアを紫子に手渡す
紙コップに入ったココアは
上にミルクがかかっている
紫子は紙コップを両手で掴む
「ありがとう」
紫子の隣に練無が座る
ベンチには2人だけ
此処にいるのは2人だけ
「何を考えてるの?」
彼は尋ねる
「なんでうちが考えてるって、
君はわかるん?」
紫子は横を見る
彼の手の中にはココア
ココアは彼に熱を与える
「しこさんの頭の後ろに、ランプがつくんだよ」
練無が彼女の目を見て笑う
「使用中って」
外はだんだん暗くなる
今は何時だろうと紫子は思う
「午前のAMは、なんでAMなん?」
紫子は微笑む
「アンチ メリディアムだよ」
練無は澄ました顔で答える
「アンチはビフォアの意味で、
メリディアムは子午線。
PMのPは、ポストでアフターの意味だよ
もとは、ラテン語じゃないかな」
「れんちゃんって、頭ええよね」
「覚えたから覚えているだけじゃん
知らないことは知らないもんね」
紫子はココアを飲む
ココアの甘みが喉の奥を通る
「どうしたの?しこさん、
眠くなっちゃったの?」
「どうして?」
「いきなり、大人しくなっちゃったから」
自分らしくない
紫子自身が一番そう、思っている
ここで返すべき言葉は決まっている
それはもう喉の奥まで来ている
それでも、今だけは、例外でありたいと思う
そう、
今は特別でありたいと思う
「うち、今、なんだか弱ってる……」
練無は頷くだけで、声は出さなかった
なんだか、そうすべきだと思ったからだ
「でも、うち…………こんな自分が
嫌いじゃない……」
紫子はもう一度、練無を見る
彼はとても優しい顔をしてる
ああ、そうか
なんで、気づかなかったんやろ
れんちゃんは
うちのコト、元気づかせようとしてたんや
そのために、うちを誘ったんや
ああ、なんで今頃……………
今日はもう終わってしまう
なんでこんなに寂しいんやろ
うちはなんでこんな気持ちになるんやろ
「今日は………………ありがとな」
紫子の予期せぬ言葉に
一瞬、練無は驚いたが
すぐ、その言葉の意味を理解した
「僕が、しこさんと遊びたかっただけだよ」
紫子はココアをベンチの上に置く
「れんちゃんは………優しいね」
その言葉を聞いた練無もまた
ココアを置いた
「優しくないよ」
練無は紫子の右手を取った
「此処でさよならするのと
手を繋いで帰るの、どっちがいい?」
紫子の手を自分の左手に絡める
「それは………困るな…………」
「どっちが困る?」
意思の強い目が彼女を見つめている
指と指が重なり合い、熱を持つ
締め付けられるような気持ちで
胸がいっぱいになる
絡まる指が、今の自分の全てだ
そう、彼女は思う
「ほら、僕はずるい」
「しこさん、大丈夫?」
練無はココアを紫子に手渡す
紙コップに入ったココアは
上にミルクがかかっている
紫子は紙コップを両手で掴む
「ありがとう」
紫子の隣に練無が座る
ベンチには2人だけ
此処にいるのは2人だけ
「何を考えてるの?」
彼は尋ねる
「なんでうちが考えてるって、
君はわかるん?」
紫子は横を見る
彼の手の中にはココア
ココアは彼に熱を与える
「しこさんの頭の後ろに、ランプがつくんだよ」
練無が彼女の目を見て笑う
「使用中って」
外はだんだん暗くなる
今は何時だろうと紫子は思う
「午前のAMは、なんでAMなん?」
紫子は微笑む
「アンチ メリディアムだよ」
練無は澄ました顔で答える
「アンチはビフォアの意味で、
メリディアムは子午線。
PMのPは、ポストでアフターの意味だよ
もとは、ラテン語じゃないかな」
「れんちゃんって、頭ええよね」
「覚えたから覚えているだけじゃん
知らないことは知らないもんね」
紫子はココアを飲む
ココアの甘みが喉の奥を通る
「どうしたの?しこさん、
眠くなっちゃったの?」
「どうして?」
「いきなり、大人しくなっちゃったから」
自分らしくない
紫子自身が一番そう、思っている
ここで返すべき言葉は決まっている
それはもう喉の奥まで来ている
それでも、今だけは、例外でありたいと思う
そう、
今は特別でありたいと思う
「うち、今、なんだか弱ってる……」
練無は頷くだけで、声は出さなかった
なんだか、そうすべきだと思ったからだ
「でも、うち…………こんな自分が
嫌いじゃない……」
紫子はもう一度、練無を見る
彼はとても優しい顔をしてる
ああ、そうか
なんで、気づかなかったんやろ
れんちゃんは
うちのコト、元気づかせようとしてたんや
そのために、うちを誘ったんや
ああ、なんで今頃……………
今日はもう終わってしまう
なんでこんなに寂しいんやろ
うちはなんでこんな気持ちになるんやろ
「今日は………………ありがとな」
紫子の予期せぬ言葉に
一瞬、練無は驚いたが
すぐ、その言葉の意味を理解した
「僕が、しこさんと遊びたかっただけだよ」
紫子はココアをベンチの上に置く
「れんちゃんは………優しいね」
その言葉を聞いた練無もまた
ココアを置いた
「優しくないよ」
練無は紫子の右手を取った
「此処でさよならするのと
手を繋いで帰るの、どっちがいい?」
紫子の手を自分の左手に絡める
「それは………困るな…………」
「どっちが困る?」
意思の強い目が彼女を見つめている
指と指が重なり合い、熱を持つ
締め付けられるような気持ちで
胸がいっぱいになる
絡まる指が、今の自分の全てだ
そう、彼女は思う
「ほら、僕はずるい」