阿漕荘の2人

日曜日

紫子side

本日は日曜日
サタデーモーニング

神さまも休む日曜日


小鳥遊 練無の朝は早い

6時に起床

ジョギングをして

根来機千瑛に少林寺拳法を公園でならう

根来は練無の師匠だ

7時に帰宅

シャワーを浴びる

朝食をたべる

朝8時

情報番組が始まる頃

軽く化粧をして

長い黒髪のカツラを被り

ブラウスに袖を通す

お気に入りのスカートに着替え

高さ3㎝のミュールを履く

玄関を開け、鍵をかける

8時30分


そう、小鳥遊 練無には女装癖がある

ドン引きやな

練無にどうしてそんな格好をするのか

問いてみると

彼はこう答える


『その質問 あまりに沢山受けるんで
僕の中で答えは用意してるんです。

実は、僕自身も本当のところはよくわかりません。
では、逆に聞きます
貴方はどうしてそんな格好をしてるんですか?
って

僕が男であるのに関わらず
女の子の格好をすることが受け入れてくれない人がほとんどです

それでも、いいんです

僕を知っている人は、僕の格好を受け入れてくれるし

僕を知らない人は、僕を女の子だと
思う

なんの不都合も生じません。」


小鳥遊 練無はな
普段はあんなへなちょろい男やけど

実際、頭のいい男やから
敵に回すと痛いんやな、火傷するで

しかも、女装というより、まんま女の子やから
ってか認めたくないけど
うちより可愛いいんやな

小鳥遊 練無と街歩くと
うちが男で れんちゃんが女の子なんや

うちが見た目、男っぽいのもあるけど

それにしても

うちにだってプライドってもんが……

「ねぇ、いつまでついてくんの?」

「あれっ、気付いとったん?」

「しこさんって僕のストーカーだったの?」

阿漕荘の階段を2人はおりて
駐車場にたつ

「いやはな、れんちゃん、ちゃうで。
偶然やで、はっはっはっ、」

「……どうして家の中の事まで
しこさん、しってるの?」

「…それは……企業秘密やな……」
「企業?
香具山探偵事務所とか?
胡散臭いなー、それに
尾行も下手すぎだよ!

毛利小五郎さんの所行って
弟子入りしなよ」

「変装もしたんやで」

男物のシャツにジーンズ

スポーツ品メーカーのスニーカー

そしてニット帽

れんちゃんは下から上に目線をあげた

「…いつも通りじゃん」
「あっ、わからんのかいな?
いつも一緒にいるのになー

今日はキャップやないんで、ニット帽なんやで


そんなんだと、モテへんで

女の子の小さな変化にゃ気づかなあかんで」

「雀の涙並の変化じゃない?」

「それより、朝っぱらからおめかしなさって何処に行くん?

君ね、確かに可愛らしいと思うし似合ってるって思うけど

なんや、最近ケバいんちゃう?

お化粧やないよ、そのお洋服やで

そないレトロなブラウスやらスカートやら
何処で仕入れてんやい?

ひょっとして
そういうのが趣味のお相手はんがおるんかいな?

早朝デートですかいな、この野郎?」

「…しこさん、最近、お口が悪いよ

見た目だけじゃなくて中身まで男っぽいよ、

少しは僕を見習ってよ」


んっ?なんやこれ?
ちょいと、頭に血ー上ったで!
血ー上って降りてこんへんで!


余計なお世話だっつーの

「それで、しこさんはどうしたの?
僕に何か用事があるんでしょ?

まさか、僕の観察日記でも書いてたの?

それは別の意味で怖いけど…」

「……写真や」

「えっ写真?」


れんちゃんはハトが豆鉄砲食らったような

お可愛いらしい顔がアホ頭化してしもうた

「キミさぁ
この前、うちん何処の大学に来たやろ
ラーメン食いに行った時や
うちが遅いから迎えに来たやろ」

「あーあったねー」

「そん時、れんちゃん、男の子の格好してたやろ」

「あー授業の後だったからねぇ」

そう、れんちゃんの女の子バージョンは休日限定で平日は男の子や
「ん?それが、どうしたの?
上手く繋がらないなー」

「クラスになぁ、まぁなんというか

そりが合わないというか
馬が合わないというか

まぁいけ好かない女がいるんやけど… 」

「ふぅん。それで?」

「いや、あん時、れんちゃんの事見たみたいで…そんでな……

いや、なんか、

ちょいとな

勘違いしたみたいで…」

「勘違い?えっ、どんな風に?」

「どんな風って……
察しろや!
わかるやろ!」

「わかんないよ、説明してよ?」

「何でキミは賢いのに
こういう事になると鈍いんや!

だから、まぁ、
勘違いをなさったんや、あの女は!

うちは、もちろん、否定したやで

違う、友達やって!

そしたらな、その女

今度は調子こいてきて

うちみたいな男女に彼氏なんか出来へんってゆうてきてな

あの女は自分には彼氏がいるから
偉い思ってるんねん


そんでな、うちもカチーンときてな

思わずな、ゆうーてしまってな」

れんちゃんはうちの目を見てちょっと考えてるようだ

なんだか、うちは恥ずかしいような
胸くそ悪いような気がして
居たたまれなくなってきた

「何て言ったの?」

「……いや、だからな、うちも見え張って
でまかせ言うてしまって……な

そしたら、証拠見せろって
写真ぐらい持ってやろって!」


「ふぅん、
それで僕と何が関係あるの?」


私はそらしてた目をれんちゃんに向けた


……んっ???
……あれっ?
なんや、れんちゃん
ずいぶんと、まあ、憎ったらしいくらい
ニコニコしてへんかな?

うちの思い過しかな?

れんちゃん、口ではわかりません
とかいいながら
なんや充分に理解しとるような気
がするんやけど


なんやこれ?イジメかいな?


「……だから、れんちゃんの写真が欲しかったんや
でも、れんちゃん、今日は女の子になっとるし…どないしよって…」

「ふぅん、ねぇしこさん、

しこさんはその女の子に

僕の事なんて言ったの?

どうして、僕の写真じゃなきゃダメなの?」


なんだか……
どんどん追い詰められてるような気がしてきた

うち、何も悪いことしてへんはずなのに
崖に追い詰められた犯人みたいや……


なんや、死にそうや……


「………あー、もういいで!
元はと言えば、嘘ついたうちが悪いんだし

正直に言って謝るなり

他の人に頼むなり

なんとかするで!」



んっ?


……あれ?
なんか、れんちゃん黙っちゃったぞ
さっきまでの
胡散臭い笑顔は何処に行ってしまったんやろ?



「…別の人……」

「ん、そうや、他の友達に『悪かったよ!!
ちょっとイジメ過ぎたよ!

謝るから、僕の写真にしなよ!!


僕の事はしこさんの好きに紹介しなよ

なんだったら、彼女の所に一緒に会いに行こ」

「…なんか変やって思ってたら
やっぱし
からかってたんかい⁈」

「……鈍いな。」

「えっ何?何か言った?」

「いや、なんでもないよ
それよりしこさん、せっかく珍しく早起きしたんだから
一緒に買い物に行かない?

今、夏物バーゲンで安いんだよ」

「れんちゃんのおめかしの理由は買い物やったんか

行くでー!
財布持ってくるから
待っといてー!」





こうして香具山 紫子の携帯のアルバムに
れんちゃんとの2ショット写真が加わったのでした。おしまい。
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