猫とカフェ
絶対に美味しいに決まってるが、食べてみるとやっぱり美味しかった。
生地の部分もあっさりとしていて、くるみの歯ごたえとレーズンの甘酸っぱさがたまらなく合っている。すぐに一つを平らげると次のパンへと手が伸びる。
「朝じゃけね~あっさりとしたパンにしとるんよ」
言わなくても顔を見たら美味しいと書いてある私の顔をみながらチャ―ちゃんが嬉しそうに説明してくれた。
「ほんと…全部美味しいです」
こんなお店が近くにあったら毎日通っていると思う。
それほど、一つ一つ丁寧に作らえていて食べる人の事を配慮した美味しいパンぱかりだった。妹にも食べさせてあげたいな…お土産に持って帰りたいぐらいだった。食べている間フェスタは特にしゃべる事もなくただひたすら食べ続けていた。飲んだアイスコーヒーまで美味しいのには驚いた。
「これ…も美味しい」
アイスコーヒーもあっさりした口当たりで飲みやすい。胃にこないだろうなというのはすぐ分かる。私は濃すぎるコーヒーが苦手で、飲むとすぐ胃が反応するのだ。大好きだけどあっさりしていて何杯も飲める感じのコーヒーが好きなのでこれは100点満点!
充実した朝食を食べれてかなり満足で嬉しい気持ちになれた。
「今日はこのハーブの育て方にしようかね?」
キリがいい頃合いでチャ―ちゃんが今日の予定を話し始めた。
万能ハーブの育て方か…ドキドキしながら注目していると、チャ―ちゃんは手招きをする。そのままついて行くと奥に又別のドアがあり、階段が続いている。
その階段を上ると明るい光が差し始めた。
綺麗な絨毯が敷かれており、ドアも色々あるがチャ―ちゃんは光が差す方向に歩いて行く。つきあたりに光が気持ちよく入り込んでくるリビングがあった。
システムキッチンでシンプルに不要な物は置いていない。色は木目調に統一されており、温かみを感じる
システムキッチンの隣に小さな勝手口があり、そこから外に出れるようだ。
「わあ…」
外に出てみるとレンガ造りの花壇があり、ハーブや花がたくさん咲いていた。
その中に見覚えのあるあのハーブも咲いている。ひと目見ても手入れが行き届いているのがわかる。チャ―ちゃんは几帳面なんだな…と感心してしばらく綺麗な花壇を見つめていた。
「これはね…」
急に説明を始めるチャ―ちゃんに慌ててメモの準備をし書き始める。
「こやってちぎって埋めたら勝手に生えてくるけえ~楽なんよ」
「……」
せ…説明終わり!?
メモする事もないくらい一瞬で終わった説明にキョトンとしてしまう。
「心配せんでもこれからまだ補足があるんよ」
植え方や、水をまく周期、収穫の仕方等…ポイントを教わりメモを書き進めた。
「あの…害虫とかの対策はどうすればいいんですか?」
植物や野菜に虫はつきものだろうと思い、質問をしてみた。
「これね…虫とかついた事ないんよ~多分嫌いなんじゃろ」
とケタケタ笑われて終わった。
育て方も簡単で特に面倒な手間をかけなくても勝手に生えてくれるのはとても助かる!こんな植物もあるんだな…と不思議に思いじっと見ていると外から気配がしたので、何となく隠れてみた。
「おはよう~チャ―ちゃん」
声を掛けて誰かが花壇に向かってくる。
私は音を立てないようにこっそり勝手口に後ずさりし始めた。
「お姉ちゃん、隠れんでもええんよ」
チャ―ちゃんが、抜き足差し足で動いている私に声をかけた
「あんたのことは公にしてる事だしコソコソせんでもええよ」
最初から言っといてよ!
ちょっと恥ずかしくなりながら元の場所に戻った。
「気になるけえ見に来たんじゃろ?」
声を掛けて入ってきていたのはちょっと小太りの三毛猫だった。
興味深々な顔つきでこちらを見ている。
「ほお…これがお姉ちゃんか」
「おはようございます」
とりあえず挨拶はしておいた。
「野次馬はいちいち気にせんでえーよ。人が来たのは久々だから見に来ただけの暇な爺さんだし」
チャ―ちゃんがこんな事を言えるのはきっと仲がいいんだろう。。。
フェスタと違って特に言い返す事もなくニコニコしている。
「いつからここに…?」
「昨日からです」
そう答えると…また私の方を見てニコニコしている。
か…会話が続かない!何を話しかけたらいいのかもよく分からないし、
明らかにあちらが会話したそうなのはわかるが、浮かんでこない!
「今日は天気がいいですね…」
天気の話でごまかす作戦に出てみた。
「そうじゃね…」
「……」
特に盛り上げる事もなくそのまま終わってしまった。
「さっちゃん、もう帰りんさいや!お姉ちゃんが困っとる」
チャ―ちゃんがそういうとニコニコと去って行った。
つかみどころのない人だな…まあ猫なんだけど。
「いちいち律儀に反応せんでもええよ、ほっといてもええし。とりあえず家に戻ろう」
チャ―ちゃんについて行って元の部屋に向かう
地下に降りてもフェスタの姿はなく、食器がキッチンに移動してあった。
「フェスタも何かしよるみたいじゃね。まあ、そのうち戻ってくるけえ私らは次の事に進もう」
椅子に坐るとノートを開いて準備して待機した。
「お姉ちゃんアイスコーヒーも好きじゃろ?あっさりしたヤツ。あと、美味しいアイスティもあるけど、気になる?」
「はい。気になります」
チャ―ちゃんは形の違うグラスを四つ置き、又キッチンに戻り、今度はガラスのティポットを三種類持ってきた。
それぞれをグラスに注いでくれると、みんな違う色でピンク、赤、黄色の三色の透明な綺麗な液体が並んだ。
「全部透き通ってて色も可愛いですね…女性が好きそう。グラスもそれそれ可愛いし」
「可愛いだけじゃないんよ。まあ飲んでみて」
言われるままにまず、ピンクのアイスティから口にした。
程よい酸味とフル―ティな味がしてとても美味しい。
「これは外の花を使ったアイスティで隠し味に少しだけピンクグレープフル―ツをいれてるけどね。もっと色を出したかったら量を足すと乳白色で可愛いよ」
次の赤いのは少し甘め…といってもすっきりした甘さで美味しい。黄色はさわやかででもしっかりと紅茶な味がした。どれもそれぞれ違うタイプだけど、私はどれも好きな味だった。
すっかり気に入っている私にチャ―ちゃんは
「作り方メモしとるけ~気になった事あったらゆうて」
分かりやすく説明が書かれたプリントを渡してくれた。
絵も入っているし、ポイントは猫のマークが入っていて可愛い。
「可愛いコレ!」
チャ―ちゃんも笑いながら
「猫のマーク書く所がお茶目じゃろ?」
とまんざらでもない様子。ホント優しいな…面倒だろう事をサプライズでやってくれてるし、親切すぎて申し訳なくなるくらいだ。
チャ―ちゃんがプリントをくれたおかげで、質問に時間がたくさん取れた。
頭の中で整理しながら質問をして、更に書き足して…を繰り返していると時間が過ぎるのを忘れてしまうくらいだ。
何となく分かってきたと思った時、チャ―ちゃんが
「そろそろ休憩にしようや」
と声をかけてくれた。腕時計を見ると三時過ぎ…自分でも驚いた。
仕事をしている時は、お昼までは何とか耐えれても午後からがとても長く感じていた。お昼の休憩のみなので、午後からはのども渇くしトイレも何回も行きづらいし早く帰る時間が来ないかなと待ちわびたものだ。
お昼御飯を食べるのを忘れるくらい熱中する事もない。
上手く言えないが、自分でも大変だとは思うけどどこかで楽しんでいる気もする。教わる事の楽しさ…なんて今までにあっただろうか?
自ら質問する事もあまりなかった。一つ目の質問で失敗すると、次からはあまり聞いてくるなよオーラが何となく見えていて、そこから質問はしないのが暗黙のルールというか空気だったからかもしれない。
今みたいに質問を気軽にして、即座に答えて貰えて…な空気感はとても心地がいいし頭にスーっと入っている気もする。
「はい、お待ちどう様」
目の前にはホットサンドとアイスコーヒーが用意された。
ちょうど小腹が空いてきたので甘い物…というよりはおかず系を食べたかったしこのチョイスのよさにさすが!というしかない。
「いただきます!」
チーズやハムなどが挟んであるシンプルなホットサンドは食べやすかったし勢いが止まらなかった。
チャ―ちゃんも美味しそうにほおばっている。
一緒に食べると美味しいね…じゃないけど、ここ最近は一人での食事ばかりで食事に重点を置いていないメニューも多かった。お腹が膨れたらいいか…な感覚で食べていたのもある。それに比べると美味しさが更に引き立ってついつい食べてしまうのだ。
ここがカフェだったら、ずーっと居たくなるようなマッタリとしたこの空間と美味しい物や飲み物に魅かれて常連になっているに違いない。
うちの近くにも何軒かあったけど、こんな空気感はないし居心地も良くはない。
ササっと休憩して出るくらいかな。
「ほんとチャ―ちゃんが作る物って何でも美味しいんですね…」
思わず本音がポロっと出てくる
「そ~お?たまには失敗もするんよ~運がいいだけかもよ?」
ニコっと笑ったチャ―ちゃんはとても可愛く思えた。
きっと私よりも年齢は上で失礼だとは思うけど一番チャ―ちゃんに似合ってる言葉だと思った。
すぐにホットサンドを平らげて、ごちそうさまでしたと伝えると食器を片づける為に席を立った。
チャ―ちゃんも食べ終わった食器を持ってきたので一緒に洗っておく。お互い無言でのやり取りはちょっとした家族みたいな光景…だった。
それからもコーヒーのブレンドの仕方や入れ方・食べ物の下準備や保存の仕方などたくさんメモを取りつつ学んでいくのだった。
ノートに書いた事は解決した内容ばかりなので、きっと後から見返しても分かりやすいだろうな…と嬉しくなる。
自分の興味のある事、教わってる人と味の好みや気に入ってる物に共通点があるとそれだけで見が入るというものだ。単純なんだろうけど楽しい要素がプラスされる。あとマンツーマンで質問がしやすいし、こちらのペースに合わせて貰える贅沢さも有難い。
自分の嫌さ、出来なさに失望したり私は何の為に生きているんだろう…そんな考えばかりが浮かんでいたここ数日。病院に行こうと思ったのも職場で手がふるえてきたり、吐き気が止まらなかったり見た目で誤魔化されるうちは放置していたが、明らかに周りから見ても震えや動機が隠せなくなった時にネットで調べてみたのがきっかけだ。猫を飼っているので動物セラピー的な効果はないのか?と希望ももってみたが、フェスタに癒しは求めても無理な話だったし仕方なく病院に行ったのだ。いきなりこんな展開が来る事は計算外だったけど、この二日間は震えも出ないし、動悸や吐き気もない。
薬のおかげなのか、チャ―ちゃんのおかげかは分からないが気持ち的にいい傾向に迎えている気がしている。先の事は分からないし、自分に何ができるのかも分かっていないが、素直に受け入れている自分に従ってみようという気持ちにさせてもらえている。
「今日も疲れたじゃろ?大丈夫?」
チャ―ちゃんがそろそろ今日の説明を終わろうとしているのを見て
「大丈夫です。今日も有難うございました」
とお礼を言って立ちあげろうとしたが…ん?フェスタがまだいない。
「どうしましょうか…フェスタがまだ居ないんですけど…」
「そうよね…何をしとるんかね~あの猫は。まあ座って待っときんさいや」
チャ―ちゃんも他の予定があるだろうし、私がこれ以上時間を取るのは申し訳ないので
「フェスタが来るまで待ってますから、私に気を遣わなくて大丈夫ですよ?」
と付け加えておいた。
「OK!OK!じゃあ喉乾いたりしたら冷蔵庫から勝手に何でも飲んでね」
と席を離れて行った。
一人になると、少し心細いが今日の復習をする為にノートを読み返すことにした。
しばらくすると疲れた表情のフェスタが姿を現した。
「終わったんか?じゃあ帰ろか」
生地の部分もあっさりとしていて、くるみの歯ごたえとレーズンの甘酸っぱさがたまらなく合っている。すぐに一つを平らげると次のパンへと手が伸びる。
「朝じゃけね~あっさりとしたパンにしとるんよ」
言わなくても顔を見たら美味しいと書いてある私の顔をみながらチャ―ちゃんが嬉しそうに説明してくれた。
「ほんと…全部美味しいです」
こんなお店が近くにあったら毎日通っていると思う。
それほど、一つ一つ丁寧に作らえていて食べる人の事を配慮した美味しいパンぱかりだった。妹にも食べさせてあげたいな…お土産に持って帰りたいぐらいだった。食べている間フェスタは特にしゃべる事もなくただひたすら食べ続けていた。飲んだアイスコーヒーまで美味しいのには驚いた。
「これ…も美味しい」
アイスコーヒーもあっさりした口当たりで飲みやすい。胃にこないだろうなというのはすぐ分かる。私は濃すぎるコーヒーが苦手で、飲むとすぐ胃が反応するのだ。大好きだけどあっさりしていて何杯も飲める感じのコーヒーが好きなのでこれは100点満点!
充実した朝食を食べれてかなり満足で嬉しい気持ちになれた。
「今日はこのハーブの育て方にしようかね?」
キリがいい頃合いでチャ―ちゃんが今日の予定を話し始めた。
万能ハーブの育て方か…ドキドキしながら注目していると、チャ―ちゃんは手招きをする。そのままついて行くと奥に又別のドアがあり、階段が続いている。
その階段を上ると明るい光が差し始めた。
綺麗な絨毯が敷かれており、ドアも色々あるがチャ―ちゃんは光が差す方向に歩いて行く。つきあたりに光が気持ちよく入り込んでくるリビングがあった。
システムキッチンでシンプルに不要な物は置いていない。色は木目調に統一されており、温かみを感じる
システムキッチンの隣に小さな勝手口があり、そこから外に出れるようだ。
「わあ…」
外に出てみるとレンガ造りの花壇があり、ハーブや花がたくさん咲いていた。
その中に見覚えのあるあのハーブも咲いている。ひと目見ても手入れが行き届いているのがわかる。チャ―ちゃんは几帳面なんだな…と感心してしばらく綺麗な花壇を見つめていた。
「これはね…」
急に説明を始めるチャ―ちゃんに慌ててメモの準備をし書き始める。
「こやってちぎって埋めたら勝手に生えてくるけえ~楽なんよ」
「……」
せ…説明終わり!?
メモする事もないくらい一瞬で終わった説明にキョトンとしてしまう。
「心配せんでもこれからまだ補足があるんよ」
植え方や、水をまく周期、収穫の仕方等…ポイントを教わりメモを書き進めた。
「あの…害虫とかの対策はどうすればいいんですか?」
植物や野菜に虫はつきものだろうと思い、質問をしてみた。
「これね…虫とかついた事ないんよ~多分嫌いなんじゃろ」
とケタケタ笑われて終わった。
育て方も簡単で特に面倒な手間をかけなくても勝手に生えてくれるのはとても助かる!こんな植物もあるんだな…と不思議に思いじっと見ていると外から気配がしたので、何となく隠れてみた。
「おはよう~チャ―ちゃん」
声を掛けて誰かが花壇に向かってくる。
私は音を立てないようにこっそり勝手口に後ずさりし始めた。
「お姉ちゃん、隠れんでもええんよ」
チャ―ちゃんが、抜き足差し足で動いている私に声をかけた
「あんたのことは公にしてる事だしコソコソせんでもええよ」
最初から言っといてよ!
ちょっと恥ずかしくなりながら元の場所に戻った。
「気になるけえ見に来たんじゃろ?」
声を掛けて入ってきていたのはちょっと小太りの三毛猫だった。
興味深々な顔つきでこちらを見ている。
「ほお…これがお姉ちゃんか」
「おはようございます」
とりあえず挨拶はしておいた。
「野次馬はいちいち気にせんでえーよ。人が来たのは久々だから見に来ただけの暇な爺さんだし」
チャ―ちゃんがこんな事を言えるのはきっと仲がいいんだろう。。。
フェスタと違って特に言い返す事もなくニコニコしている。
「いつからここに…?」
「昨日からです」
そう答えると…また私の方を見てニコニコしている。
か…会話が続かない!何を話しかけたらいいのかもよく分からないし、
明らかにあちらが会話したそうなのはわかるが、浮かんでこない!
「今日は天気がいいですね…」
天気の話でごまかす作戦に出てみた。
「そうじゃね…」
「……」
特に盛り上げる事もなくそのまま終わってしまった。
「さっちゃん、もう帰りんさいや!お姉ちゃんが困っとる」
チャ―ちゃんがそういうとニコニコと去って行った。
つかみどころのない人だな…まあ猫なんだけど。
「いちいち律儀に反応せんでもええよ、ほっといてもええし。とりあえず家に戻ろう」
チャ―ちゃんについて行って元の部屋に向かう
地下に降りてもフェスタの姿はなく、食器がキッチンに移動してあった。
「フェスタも何かしよるみたいじゃね。まあ、そのうち戻ってくるけえ私らは次の事に進もう」
椅子に坐るとノートを開いて準備して待機した。
「お姉ちゃんアイスコーヒーも好きじゃろ?あっさりしたヤツ。あと、美味しいアイスティもあるけど、気になる?」
「はい。気になります」
チャ―ちゃんは形の違うグラスを四つ置き、又キッチンに戻り、今度はガラスのティポットを三種類持ってきた。
それぞれをグラスに注いでくれると、みんな違う色でピンク、赤、黄色の三色の透明な綺麗な液体が並んだ。
「全部透き通ってて色も可愛いですね…女性が好きそう。グラスもそれそれ可愛いし」
「可愛いだけじゃないんよ。まあ飲んでみて」
言われるままにまず、ピンクのアイスティから口にした。
程よい酸味とフル―ティな味がしてとても美味しい。
「これは外の花を使ったアイスティで隠し味に少しだけピンクグレープフル―ツをいれてるけどね。もっと色を出したかったら量を足すと乳白色で可愛いよ」
次の赤いのは少し甘め…といってもすっきりした甘さで美味しい。黄色はさわやかででもしっかりと紅茶な味がした。どれもそれぞれ違うタイプだけど、私はどれも好きな味だった。
すっかり気に入っている私にチャ―ちゃんは
「作り方メモしとるけ~気になった事あったらゆうて」
分かりやすく説明が書かれたプリントを渡してくれた。
絵も入っているし、ポイントは猫のマークが入っていて可愛い。
「可愛いコレ!」
チャ―ちゃんも笑いながら
「猫のマーク書く所がお茶目じゃろ?」
とまんざらでもない様子。ホント優しいな…面倒だろう事をサプライズでやってくれてるし、親切すぎて申し訳なくなるくらいだ。
チャ―ちゃんがプリントをくれたおかげで、質問に時間がたくさん取れた。
頭の中で整理しながら質問をして、更に書き足して…を繰り返していると時間が過ぎるのを忘れてしまうくらいだ。
何となく分かってきたと思った時、チャ―ちゃんが
「そろそろ休憩にしようや」
と声をかけてくれた。腕時計を見ると三時過ぎ…自分でも驚いた。
仕事をしている時は、お昼までは何とか耐えれても午後からがとても長く感じていた。お昼の休憩のみなので、午後からはのども渇くしトイレも何回も行きづらいし早く帰る時間が来ないかなと待ちわびたものだ。
お昼御飯を食べるのを忘れるくらい熱中する事もない。
上手く言えないが、自分でも大変だとは思うけどどこかで楽しんでいる気もする。教わる事の楽しさ…なんて今までにあっただろうか?
自ら質問する事もあまりなかった。一つ目の質問で失敗すると、次からはあまり聞いてくるなよオーラが何となく見えていて、そこから質問はしないのが暗黙のルールというか空気だったからかもしれない。
今みたいに質問を気軽にして、即座に答えて貰えて…な空気感はとても心地がいいし頭にスーっと入っている気もする。
「はい、お待ちどう様」
目の前にはホットサンドとアイスコーヒーが用意された。
ちょうど小腹が空いてきたので甘い物…というよりはおかず系を食べたかったしこのチョイスのよさにさすが!というしかない。
「いただきます!」
チーズやハムなどが挟んであるシンプルなホットサンドは食べやすかったし勢いが止まらなかった。
チャ―ちゃんも美味しそうにほおばっている。
一緒に食べると美味しいね…じゃないけど、ここ最近は一人での食事ばかりで食事に重点を置いていないメニューも多かった。お腹が膨れたらいいか…な感覚で食べていたのもある。それに比べると美味しさが更に引き立ってついつい食べてしまうのだ。
ここがカフェだったら、ずーっと居たくなるようなマッタリとしたこの空間と美味しい物や飲み物に魅かれて常連になっているに違いない。
うちの近くにも何軒かあったけど、こんな空気感はないし居心地も良くはない。
ササっと休憩して出るくらいかな。
「ほんとチャ―ちゃんが作る物って何でも美味しいんですね…」
思わず本音がポロっと出てくる
「そ~お?たまには失敗もするんよ~運がいいだけかもよ?」
ニコっと笑ったチャ―ちゃんはとても可愛く思えた。
きっと私よりも年齢は上で失礼だとは思うけど一番チャ―ちゃんに似合ってる言葉だと思った。
すぐにホットサンドを平らげて、ごちそうさまでしたと伝えると食器を片づける為に席を立った。
チャ―ちゃんも食べ終わった食器を持ってきたので一緒に洗っておく。お互い無言でのやり取りはちょっとした家族みたいな光景…だった。
それからもコーヒーのブレンドの仕方や入れ方・食べ物の下準備や保存の仕方などたくさんメモを取りつつ学んでいくのだった。
ノートに書いた事は解決した内容ばかりなので、きっと後から見返しても分かりやすいだろうな…と嬉しくなる。
自分の興味のある事、教わってる人と味の好みや気に入ってる物に共通点があるとそれだけで見が入るというものだ。単純なんだろうけど楽しい要素がプラスされる。あとマンツーマンで質問がしやすいし、こちらのペースに合わせて貰える贅沢さも有難い。
自分の嫌さ、出来なさに失望したり私は何の為に生きているんだろう…そんな考えばかりが浮かんでいたここ数日。病院に行こうと思ったのも職場で手がふるえてきたり、吐き気が止まらなかったり見た目で誤魔化されるうちは放置していたが、明らかに周りから見ても震えや動機が隠せなくなった時にネットで調べてみたのがきっかけだ。猫を飼っているので動物セラピー的な効果はないのか?と希望ももってみたが、フェスタに癒しは求めても無理な話だったし仕方なく病院に行ったのだ。いきなりこんな展開が来る事は計算外だったけど、この二日間は震えも出ないし、動悸や吐き気もない。
薬のおかげなのか、チャ―ちゃんのおかげかは分からないが気持ち的にいい傾向に迎えている気がしている。先の事は分からないし、自分に何ができるのかも分かっていないが、素直に受け入れている自分に従ってみようという気持ちにさせてもらえている。
「今日も疲れたじゃろ?大丈夫?」
チャ―ちゃんがそろそろ今日の説明を終わろうとしているのを見て
「大丈夫です。今日も有難うございました」
とお礼を言って立ちあげろうとしたが…ん?フェスタがまだいない。
「どうしましょうか…フェスタがまだ居ないんですけど…」
「そうよね…何をしとるんかね~あの猫は。まあ座って待っときんさいや」
チャ―ちゃんも他の予定があるだろうし、私がこれ以上時間を取るのは申し訳ないので
「フェスタが来るまで待ってますから、私に気を遣わなくて大丈夫ですよ?」
と付け加えておいた。
「OK!OK!じゃあ喉乾いたりしたら冷蔵庫から勝手に何でも飲んでね」
と席を離れて行った。
一人になると、少し心細いが今日の復習をする為にノートを読み返すことにした。
しばらくすると疲れた表情のフェスタが姿を現した。
「終わったんか?じゃあ帰ろか」