寵愛の姫 Ⅰ【完】



「ーーー名前は?」



本当は知っているけど、莉茉の口から直接聞きたかった俺は尋ねていた。



「……莉茉。」


「莉茉か。」



微笑んで、俺は莉茉の隣に腰を下ろす。



「莉茉はここで何してんだ?」



俺は取り出した煙草に火を付け、紫煙を吐き出した。



「……別にただ人を見てるだけ。」



淡々と呟いた莉茉の目が、そのまま人の波に向けられる。




…………その瞳は悲しさに揺れていた。
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