寵愛の姫 Ⅰ【完】
その名前に聞き覚えは全くないけど、この好機を私は逃すはずもなく、思いっきり男の手を振りほどいた。
あっさりと離される、自分の腕。
「ぁ、あ…。」
そんな私の行動にも全く意識も向けず、ただ呆然と目を見開く男。
固まったまま、動かない。
あっさりと解放された腕を撫でながら、男の変貌に困惑しながらも、ほっと安堵の吐息を溢す。
「…………、助かった、の?」
良く分からない。
でも、一体、どうして?
「…っ、!」
怪訝に思いながらも、振り返った私も“天野さん”を見て固まった。
隣の、男と同じように。
嘘、でしょう?