寵愛の姫 Ⅰ【完】


その名前に聞き覚えは全くないけど、この好機を私は逃すはずもなく、思いっきり男の手を振りほどいた。


あっさりと離される、自分の腕。



「ぁ、あ…。」



そんな私の行動にも全く意識も向けず、ただ呆然と目を見開く男。


固まったまま、動かない。



あっさりと解放された腕を撫でながら、男の変貌に困惑しながらも、ほっと安堵の吐息を溢す。



「…………、助かった、の?」


良く分からない。



でも、一体、どうして?



「…っ、!」



怪訝に思いながらも、振り返った私も“天野さん”を見て固まった。


隣の、男と同じように。


嘘、でしょう?
< 19 / 381 >

この作品をシェア

pagetop