寵愛の姫 Ⅰ【完】
「…だったらとっとと消えろ。」
ただ、淡々とした声。
なのに、他者を動かしてしまう。
―――その声が、私は怖いと心底思ったんだ。
「ひっ!っ、本当にすみませんでした!!」
頭を深々と下げたナンパ男は、私を見る事なく脱兎の如くその場を走り出す。
「……。」
そんなあっさりと逃げ出した彼を、私はただ唖然と見送るしかなくて。
…………助かった?
「…大丈夫か?」
「っっ、」
はっと天野さん見上げれば、彼はじっと、その漆黒の瞳で私を見下ろしていた。