寵愛の姫 Ⅰ【完】
警告
「……、そうか。」
私の返事を聞いた天野さんは、ポケットに手を入れ煙草を取り出すと火を付け、口に含んだ。
香る、紫煙。
「…お前、名前は?」
「え……?」
……な、まえ?
「…………。」
天野さんの問いに、私は口を噤む。
なぜ?
さっき人と同じで、ナンパなのかとがっかりとした気分になるが、見上げた天野さんの瞳は普通で。
“欲望”の光なんて見当たらなかった。
「……。」
「……。」
私達の間にだけ奇妙な沈黙だけが流れる。
口を閉ざした私を、天野さんは急かすでもなく、ただ力強い瞳で見つめてた。
「…… 莉茉」
ぽつりと、自分の名前を呟く。
水瀬莉茉。
―――それが、“あの人達”に付けられた私の名前。