寵愛の姫 Ⅰ【完】



「…そうか。」



観念して名前を告げれば、天野さんの目が優しく細まった気がした。


「っ、」


その仕草になぜだかドキリと胸が高鳴り、息が苦しくなる。


私は、咄嗟に人の波へと視線を反らした。



……しまった!



その自分の行動に、態度が悪かったかもと身を強張らせる。


「……。」


恐る恐る横目で天野さんを伺えば、人混みを見つめながら煙草を吹かしてた。
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