Dilemma
「はぁっはぁっ…あれだ!菅谷さんの墓!」


二人が菅谷の墓にたどり着くも、誰の姿も無かった。


「…まだここまでたどり着いたやつはいないってことらしいな。」


息を整えながら、志暢は冷静に言う。



「…ていうか」

「ん?」

「さっきのって何!?翡翠組がなんちゃらかんちゃらとか…」

「あぁ…大したことじゃない。気にすんな。」


「いや気になるわ!」


「ちょっとしたハッタリに使っただけだよ。」


「へぇーやっぱり嘘だったんだ」


「!」



志暢と愛梨がバッと振り向く。
そこにはマスクを着けた金髪の女が立っていた。


「若洲鹿組次期ボス候補、三田よ!」


「うんつまりモブか!」

「三田だって言ってんでしょ!モブは名前すらないのがモブなのよ!」


「いや全身からモブキャラのオーラが溢れてる」


「うるっさいての!とにかく!怪我したくないなら黙ってそこ退きなさい!」


そう言って三田はブンブン木刀を振り回した。



「……………」


志暢と愛梨は黙って顔を見合わせた。


「…怪我したくないよな?」

「うん。」


二人は一斉に墓の前から飛び退いた。



「…え?」


三田は呆気にとられた。



「いやーやっぱモブ相手といえ、怪我すんのは御免なんだわ。な、愛梨?」


「うん。痛いのは嫌だなぁ」


「…ふん。随分物わかりの良いガキじゃない。じゃ遠慮なく…うらぁぁぁ!!」



三田は木刀を振りかぶり、凄まじいスピードで墓に近づいてくる。



「…でもな」


志暢はジャリ、と一歩前に出る。


「なんていうか…私のプライドが許さないというか…ここで退いたら人間じゃないっていうか…」


三田の耳には届かない。
愛梨にはまるでスローモーションのように見えた。

志暢の声だけが、通常のように聞こえるのだ。


「…私はな、先輩からの頼みを簡単に退けてしまうよな、そんな憐れな後輩にはなりたくないんだ。…ごめんな。」


志暢はさらに踏み出し、真正面に現れた三田の顔を思い切り殴り付けた。



「ぐっ…!」


ドシャッと砂ぼこりが舞いながら、三田はその場に倒れ込む。



「一発KOかよ…お前それでも本当に次期ボス候補か?」


「…う…お前…」


「あ?」


「…なんで…そこまでして…」


三田が悔しそうに顔を歪める。


「なんで…って」


志暢が頭を掻く。



「私たちは改生会だからだ。」



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