Dilemma
「おい奥口!ぜぇぜぇ…お前腕が鈍ってんじゃないのか!?」


「…かもな。というかお前も息絶え絶えだが。大丈夫か?」


「…ハンッ敵の心配してる場合かっつー…のっ!!」


「がっ…!ゲホッゲホッ…」


溝内を蹴られ、里美が咳き込みながら倒れ込む。


「ぜぇぜぇ…ざまぁねぇな!かつてのチーム菅谷のNo.2がこのざまか!はぁはぁ…」


「っくそ…!」


里美がジャリ、と砂を握り込む。


「…ちょうど良いその状態のまま答えろ。」


「…なんだと?」


「お前に聞きたいことがある。」


グイッと里美の胸ぐらを掴み、鼻先が触れあうほど若宮が近づく。



「…あっしはな、ずーっと聞きたかったんだ。お前なら本当のことを知っていると思ったからな。」


「………………」


「…あいつは、菅谷は何故、自殺したんだ?」


「………………」


里美は何も言わずに目を伏せる。


「あっしは驚いたさ。あの菅谷が、あんなに強かった菅谷があっけなく死んだんだからな。…自分で死を選んだことに不思議で仕方ないのさ。」


里美は何も言わない。


「…何故なんだ奥口。」


「…お前が知ることじゃ無い…!」


里美が掠れた声を出す。
いつかは触れられることだと覚悟はしていた。だけど…



「…もっと、あいつと一緒にケンカ…したかったなぁ…」


里美はハッと若宮を見た。
若宮は空を仰いでいた。その瞳は、どこか遠くを見据えるような、それでいて何かを懐かしむような瞳だった。

嘘偽りの無い心からの言葉、里美にはそう感じた。



「……若宮」


「…あいつがもうこの世にいないなんて…二度と会うことはないなんて…とても信じられない。」


「…菅谷さんは…」


「…あいつは…生きるのが嫌になったからなのか…?」



その瞬間、里美が若宮の身体を掴み、そのまま一緒に地面に倒れる。


「…痛っ…」


「…若宮」


里美は低く語りかける。
その表情は、泣きそうに歪んでいる。



「…信じてくれ、とは言わない。だけど聞いてほしい。あの人は…菅谷さんば決して生きるのが嫌になったから死を選んだ訳じゃないんだ…!」


「…!」


「ただ…あの人は…自分自身の罪を償うために…」



「そうですねぇ。あなたの言うことも一理あるんでしょう、奥口先輩。」


「…誰だ…お前…!?」


「…お前は…」


突然、音もなく現れた少女に、二人は絶句の表情を浮かべる。




少女は飴色の肩までの髪をさらりとなびかせ、ゆるやかに微笑んだ。


「…西谷…!」



それは紫ノ宮学園生徒会執行部庶務、西宮湊未だった。
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