Dilemma
第10刻・後日談 花の散りし後
ガラリと棗が部室のドアを開けると、志暢の仏頂面と愛梨のオロオロと取り乱す姿が確認でき、棗は意地悪く首を傾げる。
この女はわかっててやっている。
京都にいた頃から腹黒やらさとり女やら様々な呼ばれ方をされてきたが、結局人間は何処へ行こうが根本的な部分は何も変わらないのだ。
だから、この先もずる賢く、そして腹黒くいようと沖田棗は考える。彼女に振り回される周りの人間からすれば、迷惑極まりない話だろう。
棗はいつも通りの威圧感を与える笑顔で、副部長に話しかけた。
「どないしはったん志暢ちゃん?そないに額にしわ寄せてると、隣の家のクソババアみたいやで?」
誰だ、隣のクソババア。と、志暢は自分の手でしわを伸ばすかのようにゆっくりと摩り、そしてさらに顔を歪ませる。
「ババアの話はもういいよ…じゃなくて来たんだよ、さっき生徒会の人が。例の御礼とやらを持ってね。」
愛梨はソワソワとソファーのクッションの皺を伸ばしながら、机と棗の顔を交互にみた。
今日はいろんな皺と縁がある日らしい。
「それで?中に緑色の小人でも詰まってたん?それともたわし1年分?」
「バカ。まだ開けてねぇんだよ。お前が来てから開けようってさっき愛梨と話したんだ。」
「…変なとこ律儀やねんな。」
「親切と言えさより女。」
「そろそろ開けよう」という愛梨の言葉に2人は渋々頷き、御礼を置いたテーブルの前に座った。
「…一体何が入っているんだろう」
「…たわし1年分に1票」
「何も入っていないに1票」
「えぇ!?えっと…じゃあ購買無料券に1票!」
なんだそれ、と志暢に視線を向けられる。
「知らないの?最近始まったキャンペーンで、1枚500円で買えて600円分使えるってやつ。」
「なるほど、100円得するってことか。」
確かにそれなら可能性が高い。最近始まったキャンペーンで、生徒会役員ならその辺の入手も上手くやれるのだろう。
「とりあえず開けるぞ。」
志暢が御礼が入った箱を持ち上げると、はらりと1枚の紙が床に落ちた。
それを棗が拾い上げる。
「改生労働会の皆様へ。
先日お話しした通り、御礼をお届けしました。中身はアレです、プレミアムです。
注意点
包装紙は丁寧に開けて下さい。ぞんざいに扱うと爆発します。
この御礼は精神的にキます。最後まで根気良く頑張って下さい。
生徒会執行部庶務 西谷湊未」
一同はお礼の箱をじっと見つめた。
「…爆発するんだって」
「………」
「精神的にキますやって」
色々と突っ込みたい。
頑張れ、とは何を頑張れと言うのか。
というか文面が半分脅しのような気がするのだが。
しかしそれはみんなが思っていることなので口には出さず、志暢は黙って包装紙に手をかける。箱はオレンジと緑というお世辞にもセンスが良いとは言えないような包装紙で包まれ、黄色のリボンが付いていた。
志暢はしゅるりとリボンを解き、包装紙を丁寧に開く。
それは箱だった。まごうことなき箱だった。真っ白いその箱は大きいわけでも、小さいわけでもなく、本当に普通の箱だ。
誰かがゴクリと唾を飲む音が聞こえた。
誰もが無言の中、志暢は箱を開けた。
「…箱だ。」
箱を開けると、そこには一回り小さいだけで他は全く同じの箱が入っていた。
「…次」
棗に催促され、志暢は再度同じように箱を開けた。
「次」
それからというもの、志暢は開けても開けても出てくる箱を黙って開け続けた。
見ているだけで緊張していた愛梨も、次第にシラけたのか「頑張って志暢!」とエールを送り始める。
「次!」
ぱかっ
「次!」
ぱかっ
「…次!」
ぱかっ
それはまるで椀子そばの要領のようだった、と愛梨は語ったとか。
まさしくマトリョーシカ。その言葉がぴったりなのだ。開けも開けても出てくる箱の地獄(本物は人形だが)。
そうして10分後、ついに終わりが来た。
ぱかっ
志暢は疲れ切った顔で最初よりもかなり小さくなった最後の箱を開けた。
「ハァ…ハァ…やった…!」
「お疲れ!頑張ったねぇ!」
ぜぇぜぇと肩で息をする志暢に愛梨は激励を送る。その顔には冷や汗が流れていた。
「…これは」
棗は御礼の品を取り出す。
「あ…購買無料券!やっぱり!」
「あークソッ!こんなに頑張って結局それかよ!こんなものの為に私は頑張ったのかよ…」
どさっと志暢はソファー座り込んだ。
そんな彼女の様子を見て、棗はにっこりと微笑む。
「あっはは!このことやったんやねさっきの手紙。」
「確かに精神的にキテるもんねぇ…」
愛梨も苦笑いで答える。
「…はーあ。あいつらの思うつぼってか。」
志暢はやれやれと天井を見つめた。
この女はわかっててやっている。
京都にいた頃から腹黒やらさとり女やら様々な呼ばれ方をされてきたが、結局人間は何処へ行こうが根本的な部分は何も変わらないのだ。
だから、この先もずる賢く、そして腹黒くいようと沖田棗は考える。彼女に振り回される周りの人間からすれば、迷惑極まりない話だろう。
棗はいつも通りの威圧感を与える笑顔で、副部長に話しかけた。
「どないしはったん志暢ちゃん?そないに額にしわ寄せてると、隣の家のクソババアみたいやで?」
誰だ、隣のクソババア。と、志暢は自分の手でしわを伸ばすかのようにゆっくりと摩り、そしてさらに顔を歪ませる。
「ババアの話はもういいよ…じゃなくて来たんだよ、さっき生徒会の人が。例の御礼とやらを持ってね。」
愛梨はソワソワとソファーのクッションの皺を伸ばしながら、机と棗の顔を交互にみた。
今日はいろんな皺と縁がある日らしい。
「それで?中に緑色の小人でも詰まってたん?それともたわし1年分?」
「バカ。まだ開けてねぇんだよ。お前が来てから開けようってさっき愛梨と話したんだ。」
「…変なとこ律儀やねんな。」
「親切と言えさより女。」
「そろそろ開けよう」という愛梨の言葉に2人は渋々頷き、御礼を置いたテーブルの前に座った。
「…一体何が入っているんだろう」
「…たわし1年分に1票」
「何も入っていないに1票」
「えぇ!?えっと…じゃあ購買無料券に1票!」
なんだそれ、と志暢に視線を向けられる。
「知らないの?最近始まったキャンペーンで、1枚500円で買えて600円分使えるってやつ。」
「なるほど、100円得するってことか。」
確かにそれなら可能性が高い。最近始まったキャンペーンで、生徒会役員ならその辺の入手も上手くやれるのだろう。
「とりあえず開けるぞ。」
志暢が御礼が入った箱を持ち上げると、はらりと1枚の紙が床に落ちた。
それを棗が拾い上げる。
「改生労働会の皆様へ。
先日お話しした通り、御礼をお届けしました。中身はアレです、プレミアムです。
注意点
包装紙は丁寧に開けて下さい。ぞんざいに扱うと爆発します。
この御礼は精神的にキます。最後まで根気良く頑張って下さい。
生徒会執行部庶務 西谷湊未」
一同はお礼の箱をじっと見つめた。
「…爆発するんだって」
「………」
「精神的にキますやって」
色々と突っ込みたい。
頑張れ、とは何を頑張れと言うのか。
というか文面が半分脅しのような気がするのだが。
しかしそれはみんなが思っていることなので口には出さず、志暢は黙って包装紙に手をかける。箱はオレンジと緑というお世辞にもセンスが良いとは言えないような包装紙で包まれ、黄色のリボンが付いていた。
志暢はしゅるりとリボンを解き、包装紙を丁寧に開く。
それは箱だった。まごうことなき箱だった。真っ白いその箱は大きいわけでも、小さいわけでもなく、本当に普通の箱だ。
誰かがゴクリと唾を飲む音が聞こえた。
誰もが無言の中、志暢は箱を開けた。
「…箱だ。」
箱を開けると、そこには一回り小さいだけで他は全く同じの箱が入っていた。
「…次」
棗に催促され、志暢は再度同じように箱を開けた。
「次」
それからというもの、志暢は開けても開けても出てくる箱を黙って開け続けた。
見ているだけで緊張していた愛梨も、次第にシラけたのか「頑張って志暢!」とエールを送り始める。
「次!」
ぱかっ
「次!」
ぱかっ
「…次!」
ぱかっ
それはまるで椀子そばの要領のようだった、と愛梨は語ったとか。
まさしくマトリョーシカ。その言葉がぴったりなのだ。開けも開けても出てくる箱の地獄(本物は人形だが)。
そうして10分後、ついに終わりが来た。
ぱかっ
志暢は疲れ切った顔で最初よりもかなり小さくなった最後の箱を開けた。
「ハァ…ハァ…やった…!」
「お疲れ!頑張ったねぇ!」
ぜぇぜぇと肩で息をする志暢に愛梨は激励を送る。その顔には冷や汗が流れていた。
「…これは」
棗は御礼の品を取り出す。
「あ…購買無料券!やっぱり!」
「あークソッ!こんなに頑張って結局それかよ!こんなものの為に私は頑張ったのかよ…」
どさっと志暢はソファー座り込んだ。
そんな彼女の様子を見て、棗はにっこりと微笑む。
「あっはは!このことやったんやねさっきの手紙。」
「確かに精神的にキテるもんねぇ…」
愛梨も苦笑いで答える。
「…はーあ。あいつらの思うつぼってか。」
志暢はやれやれと天井を見つめた。