Dilemma
「さて、ではこれより神判を始めます。質問者様、貴方様のご相談とはなんでしょう?」


少し間が空き、やがて質問者は答える。



「…私はある部活動…いや…あれ部活動なのか?いやでも…うん、私はある労働組織の副リーダーという役職に就いている。」


「…労働組織…ですか!?」

「ん?うん。」

くぅちはハッと気がつき、両手でパチンと口を塞いだ。いけないいけない。自分は悩める子羊を神判する側なのだから、いつどんな時でも冷静でいなければ。
しかし、これは少し予想外だった。

「…えーとその労働組織…とは一体?先ほど部活動とも言いかけておられましたが…」

「プライバシー」

「っ…そうでしたすみません。」

くぅちは自分の頭をバシリとかなり強めに叩いた。痛い。すんごい痛い。でも耐えねばならない。個人情報がどうやらこうやらと自分で言っておきながら、プライバシー侵害を犯そうとしてしまったのだから。


「我が学園の中で…ですよね?社会のどこか危ないブラックな労働組織ではないですよね?ボランティア活動的な何かをちょっとかっこよく言ってみただけですよね?」

「ま、そんなとこかな。」

良かった…とくぅちは思わず胸を撫で下ろした。

「それで相談とは?」

「…メンバーたちが私のことを全く崇めてくれない。どうなってんのこの世は?」

「いやあなたのその考え方もいかがかと思われますが…要はそのメンバーの方々から慕われたいということですよね?」

「いや違うけど。あいつらと仲良くなんてゴメンだね。そんな薄っぺらい馴れ合いはいらねぇよ。私はもっと他のものを求める。」

薄っぺらいのか…くぅちはごくりと生唾を飲み込んだ。


性格柄、他の生徒からよく相談されるのは先ほども述べたが、この手の相談は初めてだ。
もっと、慎重に。


「それはもう…人間性の問題のような気もしますね。そう…カリスマ性とか、威厳とかが身についているのか、とか。」

「自分でカリスマ性の塊とか言う奴がいるか?ま、個人的には人を引っ張れる才能は多少はあると思ってるけど……」

そこで質問者の言葉が止まる。


暫くの沈黙後、くぅちはおずおずと声をかけた。

「あの…質問者様?」

「慕われる…か。実際どうなんだろうな。ま、嫌われてても私は全然構わないが。」

「…強い方なのですね、あなたは。」


「強くなんかない。むしろ弱いんだよ、私は。」

「私にはそうは思えませんが…」


そこでくぅちも言葉を止めた。
だめだ、これ以上会話のスパイラルは。


「…質問者」

「あ?」


「ひとつ、私に助言させてください。」
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