Dilemma
ばさりっと棗はウェーブがかかった黒髪をかきあげた。

砂埃もいっしょに空に舞う。

「………」

「そういえばアンタ、名前は?」

ふいにこっちを向かれ、ドキリとする。

「…久堂愛梨…です」

「…愛梨…ふーん。じゃああだ名は愛ちゃんやな。」

「いっ!?」

そ、そんな昔のアニメの某ヒロイン的な…!?とツッコミたかったが、そんなこともこの女の前では無意味だと本能が愛梨に告げていた。


「…おい…そろそろ手、退けやがれ」


そういえば、ここにも忘れ去られた悲しきヒロインがいた。

「…志暢!生きてたの!?良かった!良かったァ!!」

「オイ何感動の再会みたいに言ってやがる。お前数分前まで私の存在忘れてたろ、完全に」

どんな状況に陥ろうと、口数は減らないらしい。まるで何事も無かったかのような如く、志暢はがばりと立ち上がった。
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