Dilemma
「…あん?」

その頃。一人中庭を歩いていた志暢は、突然落ちてきた鞄の前に歩みを止めた。

「…おーい。何やってんだお前。危ねーぞ。」

どうやらこの鞄は、今しがた志暢が声を掛けた木の上にいる少女のものらしい。

「…ぐるるっ」

少女が動くたび、はらはらと葉っぱが舞い落ちる。

微かな呻き声が聞こえたような気がしたが、志暢はとりあえず無視することにした。


「あのぉ…」

答える様子が無い少女に痺れを切らし、再び歩き始めた志暢はまたもや歩を止めた。


「何」

「そのぉ…降りられなくて…助けて下さい」

「はあ?」


何言ってんだお前、とばかりに志暢は顔を歪める。


「大体、降りられないなら最初から登らなきゃいいだろ。」

「そっそれはそうなんですけどぉ…」

「ちっ…」

要領を得ない彼女の反応に志暢は小さく舌打ちを打つ。

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