Dilemma
「ほらよ、さっきの詫びだ。飲めよ」

「あっありがと…」

ぽんっと温かいココアを投げられる。
季節は春。夕暮れに近づくにつれ、気温は下がる。少し肌寒い体にココアはぴったりだ。


女も自販機で自分のコーヒーを買うと、ベンチに座った。
愛梨も多少、距離を開けて座った。


ごくり、と一口ココアを飲む。
途端に、ほあっと体が温まるのを感じた。美味しい、と愛梨は顔を綻ばせる。

その様子を見ると女は、フッ…と満足そうに自分のコーヒーを飲み始めた。


「…さーて、と。どこまで話したっけ?」

「この学園は転校生を受け付けないって…」

「…あぁ、それは…」

女はもう一口ごくり、とコーヒーを飲む。

「いつか、解る日が来るさ。」

「…………」

「今はまだ、知るべきでは無い。いずれ、知らなければならないことだ。そう焦るな。」

「でも…」

「私もまだ完全に確信している訳じゃないからな。でも大体の予想はつく。それに…」

ことり、とベンチにコーヒーを置く。

「お前…本当は分かってんだろ?どうして自分はこの学園に呼ばれたのか。」

愛梨は俯いたまま、答えない。


そうだ、分かっている。
でも自分はまだ、それを認めたくは無い。

「…私…まだ見つからない…答えが」

愛梨は膝の上に置いた手をぎゅっと握り締めた。


「…探しても、探しても見つからない。
私…一体どうすれば良かったんだろう…」

じわり、と涙が滲む。

「…そうか。」

フゥと女は息を吐いた。

「…あのな」

女はトン、と拳を自分の胸に当てた。

「答えなんてもんはな、いつだってここにある。」

涙が、頬を伝うのがわかった。

「見つからないとするなら、お前はただ忘れてしまってるだけなんだ。答えを無くした訳じゃあない。」


無くしたものは、二度と戻ってこないから。


「…あなたは?無くしてしまったの?…大切なもの…」

「…そうだな。」

女はフッと笑った。


「もう二度と手に入らないものだ。」


だから

簡単に手を離そうとすんじゃねぇ

しっかりとしがみつけ。


後悔するのは、自分自身なんだ。


「一体どっちが幸せなんだろうな。…全てのものに手が届いて退屈するのか」


どれだけ手を伸ばそうと届かないものを、追い求め続けるのか、


< 4 / 115 >

この作品をシェア

pagetop