Dilemma
「…松本さん?だっけ。私に何か用だった?」
「…そういえばそうだったわね。忘れてたわ、あなたがあまりにもブサイク過ぎて」
何か酷い言葉が聞こえた気がしたが、話が進まないのでスルーした。
「…沖田さんは今いないの?」
「え?棗?」
そういえばそうだ、と愛梨はポンと手を叩いた。
さっきから棗の姿が見えない。
「多分トイレとかじゃない?たまに居ないこと多いし。」
「…そう残念ね。この際あなたたちでもいいわ。高蔵さん、久堂さん」
じりっと二人に近づく。
二人はごくりと唾を飲んだ。
「いっしょにゴスロリファッションしない?」
「…………………」
「…………………」
「…………………」
「…………ん?」
「ん?じゃないわよ。そのままの意味よ」
「ちなちゃん。その子たちはオツムが弱いんだよ…察してあげて。」
「いやお前が察しろよ。いきなり突拍子もないこと言われて返答できるか。」
さっきから一切触れてはいなかったが、ちなみとちぐさの格好は凄かった。
いくら校則が緩いとはいえ、フリフリのゴスロリファッションを身につけているのだから。
そして人にブサイクと言うだけあって、なかなか顔面偏差値は高い。
おそらく性格さえ良ければモテモテ、とかそういうアレだろう。
というかここは女子高だが。
「本当は沖田さんに着てほしいんだけどね~ほら、あの子って京都出身なんでしょ?京美人ってやつ?ゴスロリとか似合いそうだよね~」
「…ん~?」
愛梨は首を傾げながら、棗がもしゴスロリを着たら、と想像してみる。
しかしそれはすぐに断念した。
「…あいつはどちらかといえば和服が似合うだろう。ゴスロリとか洋服はあんまり…」
「あら!普段着ないからこそいいんじゃない!新しいジャンルに手を出すのも大事よ~」
「だからそれは本人がいないから何とも…」
「妥協案としてあなたたちにゴスロリファッションさせてあげるって言ってるでしょ。喜びなさい、この愚民が!!」
「いいから!愚民でもなんでもいいからそれは止めてくれ!棗が帰ってきたら説得してやるから!」
「でもあなたも案外似合いそうよね?こう髪をふわふわ~とさせて……………」
いきなりちなみが沈黙した。
ちぐさが心配そうに声をかける。
「…どうしたのちなちゃん。」
「…やっぱり止めた」
「は?」
ちなみは志暢の顎をグイッと掴んだ。
「…確かにそこのブサイクちゃんよりはマシな顔ね。…でもなんていうか…雰囲気美人?」
ちなみは顎をパッと離した。
「…要するにブサイクってことね。」
「ぐはぁぁぁっ!!」
「しっ志暢ぅぅー!!!」
ちなみの言葉に志暢は吐血しながら倒れた。
「…………」
誰かにポンッと肩に手を置かれる。
振り返ると、それは棗だった。
「…どこ行ってたの」
「お花畑にお花摘みに行っててん。」
「結局トイレかよ!!!」