Dilemma
朝 7時。高蔵志暢はひとり駅前を歩き、学校へと向かっていた。


「……………」


どうも最近おっかなそうな奴等が多い。
朝っぱらから手にバッドを持ち、派手な化粧や髪型、服装に身を包んだいわゆるヤンキーみたいな奴等が路上に座り込んでいる。


ヤンキーのグループの側を通りながら、ちらりと様子を窺う。
ぷん、と香るキツイ香水の香りに志暢は思わず顔をしかめた。


依頼されたからには、志暢は調査にも手を抜かない。普通に登下校しているように装いながら、こうやって近隣を見回っているのだ。



里美からの「不良グループの暴動を阻止してほしい。」という依頼。

もしかしたらこういう奴等が関わっている可能性もあるのだ。


しかし、同時に志暢はある違和感を感じていた。


「ちょっとそこのあんた。」

志暢はギクリ、と体を強ばらせた。
さっきチラッとヤンキーたちの方を見てしまったので、『なに見とんのじゃワレェ!!』みたいな漫画とかでよくあるアレなのかと内心感動でドキドキしていた。


ゆっくり振り返る。


「…私…ですか?」

「そうだ、あんただよ。ちょっといいか」


ジリジリッと近づいてくるヤンキーに志暢はごくり、と唾を呑む。


「あんたその制服、紫ノ宮だよな?」

眼前にまで近づいてきたヤンキーの香水の香りに、志暢は顔を歪める。

「悪いが、紫ノ宮までの道を教えてくんね?ここに着いたはいいが、道わかんなくてさー誰かに訊こうにも、みんな逃げるようにどっか行っちまって。なぁお前ら?」


女がそう呼び掛けると、後ろにいる女どもは皆一様にそうだそうだと頷いた。


「…………」

「ちょいちょい聞いてる?」

「…なーんだ」

「いやなにあんたガッカリしてんの?」

王道的展開が来ると思いきや、そのフラグはボキボキに折られ、トイレに流されてしまったらしい。志暢の落胆に女は首を傾げる。

ちょっと感動していたのは秘密だ。



「紫ノ宮はこの先真っ直ぐ行って突き当たり右に行ったら着きますよ。」


「マジかー!?聞いたかお前ら!?ありがとう善良なる女子高生!あんたのお陰で世界は救われたよ。よーし行くぞお前ら!…えーと…どっちだっけ…?」


「…私も今から学校行くんで、一緒に行きますか?」


「マジかー!?よっし行くぞお前ら!この姉ちゃんに続けェェ!!」



オオオオオ!!とヤンキーたちが声を上げる傍ら、志暢はまた厄介事に巻き込まれそうだ、と人知れず溜め息を吐いたとさ。




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