Dilemma
「最近、いつも以上に若洲鹿組の暴動が酷くてな。警察もかなり手こずっているらしい。だからお前たちに依頼したんだ。」


「二つ聞きたいことがあります。」


棗がスッと指を二本立てた。


「なぜ改生会に依頼を?警察さえも手こずっている状況やのに、うちら改生会だけで解決できるとは思えません。」


「お前たちの活躍は噂に聞いている。そして実際にこの目で見たしな。暴力上等の問題児だと有名だぞ?」

「私そのなかに入ってませんよ!?」

「それに、ナッツを助けてくれてただろ?本当にありがとう!」

喚く愛梨をなだめるかのように御崎が笑いかける。

「そんなお前たちなら…アイツらを止められるんじゃないかと…そう思ったからだ。」


「…本当に?」

棗が冷たく聞き返す。


「…あぁ、きっとな。…信じている。」


「…二つ目。何故先輩たちが対処しようとせんのですか?元々若洲鹿組に対抗するチームに所属していて、若宮さんともお知り合いみたいですし。」


「…それは」


その瞬間、チャイムが学園中に鳴り響いた。同時に校内がわっと賑やかになる。


同時に愛梨が言った。

「あっ多分次体育だよ!着替え急がないと!」

「あぁ…そういえば。」


「失礼します」と愛梨と棗は頭を下げ、小走りで屋上から消えた。


それを見送った三年生二人は改めて向き直った。


「…なんで」

「あ?」


「なんであんなこと言ったの、里美」


「…どういう意味だ」


「…本当は…あの子たちのこと信用なんてしてないんでしょ?なのに信じている…なんて思わせ振りなこと言って…」


「逆だよ。」


里美は目を逸らした。


「信じているからこそ。あたしは偽り続ける。あたしはもう、誰かが悲しむ顔なんて見たくない。」


里美は一歩踏み出し、フェンスに手をかけた。




遠い記憶。


あたしがここへきたとき、あのときもこんなふうに。ほら、こんなまっさおなそらのいろ。かわらないけしき。あたしはここがすきだったのに、あのとき、はじめてこのばしょがきらいになった。
このけしきはいちねんまえとなんにもかわってない。なのにあのひとだけがいない。ことばもてがみも、なにもなかった。








学園中に授業の始まりを知らせるチャイムが鳴り響く。

ふわり、と吹いた風に乗って里美の描いた絵はどこかへと消えていった。
それは一瞬、御崎にも見えた。

屋上に佇む人物の絵が。


それと同時。里美は小さく呟いた。
御崎には聞こえなかったかもしれない。





「真実は、残酷さ。」









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