恋なんてする気はなかった
let it be
「潜水艦みたい。」

蛍がそう言ったとき、理子も全く同じことを考えていた。
一瞬自分が言ったかと思ったほどだ。

蛍といると、こんな事がよくある。
理子はその度になんだか嬉しくなって、そのあとで混乱してしまう。
どうして同じタイミングで同じことを思うのだろう。
どうして私はそのことを嬉しい、と思うのだろう。

運転中は話しかけないでといくら頼んでもお構いなしの蛍が、さっき呟いたきりずっと黙りこくっている。

ちらり、と横目で見ると蛍は頬杖をついて暗い窓の外を眺めていた。
理子は小さくて短いため息をつく。
ちょっと言い過ぎたかもしれない。
だけど、本当なことだもの。
きっと、がっかりする。

「理子。」

さっきと全く同じ姿勢のまま、蛍が口を開いた。

「理子からしたら、17歳の俺なんか恋愛対象外?」

理子って何歳?と聞かれた時、理子は蛍くん干支は何?と聞き返した。
蛍はエト?と不思議そうに首をかしげあと、あぁあの干支ねと納得したように呟いてから教えてくれた。

蛍の答えを聞いて、私も同じと言ったら、蛍は意味をしばらく考えたあと、じゃあ29だ、と得意気に答えた。
年齢を知れば、去っていくと思っていた理子の予想は外れた。

恋愛対象外。

17歳の男の子にとって、29歳の女は恋愛対象外ではないのだろうか。
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