恋なんてする気はなかった
理子はショーウィンドウに映る自分と蛍の姿をこっそり眺める。

右手にひとつ、左手にふたつのショップバッグを持った蛍の足音はものすごく軽やかで弾むような音がする。
蛍は理子が今まで付き合ってきたどの男性とも違った。
服でも靴でも行ったことはないけど、たぶん下着でも、嫌な顔ひとつせずに一緒に選んでくれる。
それどころか、なんだかとても楽しそうだ。

お姉さんと妹がいる、と言っていたからその影響なのかもしれない。
姉ちゃんは年がかなり離れている、というから年令を聞いてみたら、22歳だと言う。
年の離れたお姉さんでも、私より7歳も年下なのか、と理子はその時ひどく落ち込んだ。

私たちはどう見えるのだろう。
理子は考える。
きょうだい?
ともだち?
それとも恋人?
いいや、それはない。

北欧の雑貨がたくさん並ぶ店で、なにかおもしろいものでも見つけたのか、蛍が大声で理子を呼んでいる。

「蛍くん、声が大きいよ。」

あきれながらも理子はつい笑ってしまう。

「なぁに?なにかいいものあった?」

理子が近づくと、蛍は直径五ミリほどの水色の石がついたピアスを手にしていた。

「理子、これ見て。光が当たると石に線が浮かぶよ。」

「え?あぁ、これ。キャッツアイだよ。」

「キャッツアイ?」

「猫目石。猫の瞳みたいでしょ。」

「へぇ、おもしろい。」

蛍はしばらく石の角度を変え、現れては消える模様を眺めると、

「これ、一緒につけようよ。」

くるり、と急にふりむいて笑う。

「一緒に?」

「そう。お揃いで。」

お揃い。
その響きはあまったるくて、くすぐったくて、 理子は思わず、ははっと乾いた笑いをもらした。

「きーめた。俺は鼻につける。理子は左耳だ。」

その笑いを同意したととらえたのか、蛍は軽い足取りでレジに向かうと、あっという間に会計を済ませて戻ってきた。

「コーヒー飲も。俺がご馳走するから。」

なに勝手に決めてるのよ。私、お揃いなんて恥ずかしいこと、絶対しないからね。
そう思うのに、繋がれた手を振りほどけないのは何故だろう。


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