恋なんてする気はなかった
窓際の席に並んで座り、チャンキークッキーフラペチーノwithチョコレートチップなんていう、甘くてカロリーが高くてよけいに喉が乾きそうなものを蛍はおいしそうに飲んでいる。
あれはもはや飲み物じゃない、なんて内心思いながら、理子はソイラテを飲んでいた。

「さっそくつけてみよっと。鼻ピ。」

「ピアス、校則違反じゃないの?」

蛍はそこそこ名の知れた県立高校に通っている。

器用に手探りでピアスを入れ終えた蛍は、鼻に小さく皺を寄せて、

「ピアスは校則違反だってさ。スケボー通学も。バカらしい。」

吐き捨てるようにつぶやいた。

「バイト中もだめなんでしょ。てか、スケボー通学ってなに?」

「スケボーで学校行ったらダメなんだってさ。チャリはいいのに、意味不明。」

どっちも二輪なのにな、と蛍は口を尖らせた。
そうですねぇと調子を合わせながら、社会に出るともっと理不尽で意味不明なことがあるよと内心思う。

「だから、学校終わってバイトない日とかにつける。」

「校則は守るんだ。えらいじゃない。」

「破るほどの価値もない。」

理子がなにそれ、と笑っていると、蛍は立ち上がり、理子の後ろを通って左側に立つと耳にそっと触れた。

「じっとしてて。ピアス入れるから。」

耳たぶに蛍の温かい指先を感じる。

理子はなぜだか緊張して、窓ガラスに映る自分の顔に目を凝らした。
どうってことない、普通の女だ。
特別に美人なわけでも、胸が大きいわけでもなく、仕事ができるわけでもない。
与えられた仕事を毎日たんたんとこなし、部長のセクハラに愛想笑いをし、後輩の女の子の泣き言を聞いてやり、そして三年間も不毛な恋をしていた、そんな私と一緒にいて、彼は一体なにが楽しいのだろう。

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