懲りもせず、恋する私
課長の車は、
黒のセダン
たまに、会社に乗ってくるのを
みたことがあった。

鬼課長を知らない、
他の部署の子達は、
長身でクールな課長に
「クールでかっこいい!」と
人気がある。

その度、本当の顔も知らないで
よく言うわ…なんて事を
言ってた私が…、

「佐伯、場所は?」
「仲町通りの交差点を抜けて、
公園があるので、そこの近くです」

「わかった」

15分ほど走り、見慣れた景色が
見えてきた。
「ここで、ありがとうございました」
シートベルトを外そうとした私の
腕を掴み、
「お礼は?お茶でもとかねぇの?」
「あはは〜。そうですよね。では、
お茶でも」
「車は?」
「公園の駐車場に」
「わかった」

私の住むアパートは、
築15年のくたびれたアパート。
今は流行りのリノベーションで
内装は、新しいのだ。

階段を上って、一番奥が私の部屋

カギを開け
「散らかってますけど」

佐伯のアパートに
入り、
中をみた。

モノトーンでまとめられた落ち着いた雰囲気。

ところどころ、
クマやウサギのぬいぐるみが
置いてある。
「綺麗にしてんだな」
「なにもないですけどね…」

コーヒーをセットし
ソファーに座る課長に
「ブラックですか?」
「砂糖とミルク!」
「甘党ですか??」
「たまたまだ。お前のせいで
疲れたからな!」
また、意地悪を言ってしまった。

「すみません。」
ポコポコっと
ドリップされたコーヒーの
香りが部屋に広がる

カップに注ぎ、
砂糖とミルクを添え
「どうぞ」
「ありがと」
シーンとする。

こくん、
一口飲んだ。

「男…いや、彼氏いるのか?」
「いるわけないです。もう…3年…かなぁ〜。恋は…もう…私、不適合者なんで」
悲しげな顔をした。
「なんかあったのか?俺が聞く事じゃないのかもしれんが…。」
「私…。バカだから、二股掛けられてたなんて、知らなくて…。優しくしてくれるのは、私にだけだって…でも、違ったんですよね…。単なる遊び相手…。
キツイ女は、抱くのはいいけど…
彼女は無理、な〜〜んて本当こんなんだから、…」
下を向き、大粒の涙がテーブルに
落ちていた。

「そいつ、バカだな。お前は、キツイんじゃなくて、負けられないって
必死なだけなのにな…。少なくとも
俺は、そう思ってる。」
「課長…。そんな風に私を…?」
「佐伯…。毎日、お前を見てたら
わかるよ。その位、誰より努力して
頑張ってる事くらい」

「うっ…うわぁ〜〜ん。え〜〜んひっ」
何かが解かれて行くように
私は、止まらない涙を抑える事が出来ないでいた。

課長は…優しく抱きしめて、
「だったら、俺の事。すきになれ!」
「えっと…」
「俺は、佐伯をずっと見てたんだ。
入社してから…ずっと」
「えっ?私と歳も違うし?」
「俺は、中途採用だからな」
「あの、噂で…異動前、何かあったって
本部からだから…」
「あー。あれは、本当だ。上司が、
セクハラまがいの事をしてたのを
止めて、殴った。で、俺だけ処分」
「そんなのおかしいです!!抗議しなかったんですか?」
「セクハラ受けてた子がな。名前
出したくないって。結婚前だったから
気にしたんだろう…」
「上司に暴力だ。当然…」
悲しそうな顔。
「正義なんて…
意味なかったのかもな…人に対して
感情を出さない。そう決めたのも
その時からだ。だから…自分に厳しい分
周りにも厳しくあたるようになっていた
上司として…。」


「その子!!ムカつく!それじゃ
課長かわいそうだよ〜〜。」
何故だろう、涙が止まらない。
切なくて、悔しくて、
その二人への怒りがさらに
涙になってしまう。
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