懲りもせず、恋する私
上階の部屋を出たのは、
社員たちが居なくなった
静かな社内。

「つぐみ、夕食食べて帰ろう」
「うん。お腹空いたね」
直通の重役専用エレベーターで
地下に降り
そのまま車で
翼の行きつけのお店に向かった。

「さぁ、行こう」
手を繋ぎ入ったのは、
可愛らしい小さな町の洋食屋さん。

「おじさん!今晩は!」
「おっ!翼くん。あれ?その子は?
もしかして、いつも言ってる噂の子?」

「まぁ…ね。紹介するよ。佐伯つぐみ
今は、彼女。そのうちね…」

「そうか。よかったな。翼くん。」

「今晩は、佐伯つぐみです。あの…翼とは?」

「そうだね。翼くんは、
私の友人の息子。」

「しゃ、社長の??お友達?」
「かたや、社長、私は、
洋食屋の親父だ」

「そんな…。私、こうゆう可愛らしい
お店。凄く落ち着くって言うか、
好きなんです。あったかい感じかして」

「お嬢さん、ありがとうね。翼くん
いい子見つけたね。」

「さぁ、なに食べたい?なんでも
作るよ?」

「おじさん、俺は、アレがいい、」
「オムライスのホワイトソースがけな!」

「お嬢さんは?」
「あっ、同じものを」

ニコニコしながら奥の厨房に入って
行った。

カタカタっと階段から降りる
柔らかい感じのおばさん。
「あら!翼くん!来てたの?」
「おばさん、どうも!」
「今晩は」
「例の彼女?可愛らしい人ね。」
「翼くんはね。子供の頃は
泣き虫で、喧嘩しては泣いて、鼻水垂らしてそりゃ〜も〜〜。わんわん!
泣き止ませたくて
特製パンケーキ食べさせてさ。」

「おっ、おばさん!そんな事今更!」
「あら!本当の事でしょう?」

「参ったなぁ。」

「おっ、手伝ってくれ!八重ちゃん。」
「はーいよ!」

運ばれてきたオムライスは
とても良い匂いで
トロトロ卵が絶妙。
「頂きます!美味しそう!」
スプーンで一口。
「ふっふ、うわーおいひーね。」
「だろう!」

あっという間に平らげた私達。

「ふ〜、お腹いっぱい!」
「美味かった!」
「翼くん。これ、持って帰って、」
「あっ!これ、ビーフシチュー。」

「そう、お父さん好きでしょ。届けてあげて。それで、たまには、顔出しなさい
って伝えて!」

「わかった。言っておくよ。
ありがとう。ご馳走さま。」

入り口まで見送られ
手を振る翼は、
子供のように柔らかい笑顔だった。

「つぐみ、少し、ドライブするか」
「あっ。うん」

着いたのは、
地元でも有名な
夜景の見える丘公園。

柵の近くでベンチに座り

「つぐみ…。俺はこれから会社を経営する側になる。そしたら、一社員の
つぐみと関わることもほとんど無い。」

「そうだね。寂しいけど…仕方ない事
だもの…」

「考えたんた。どうすれば、つぐみを
側に置いておけるか。」

「うん…」両肩に翼の手が置かれ

ジッと私を見つめた。

「藤倉つぐみになれよ。結婚しよう」
「……。つ、つば、さ…?」
震える身体。

「返事は?嫌か?」
頭を横に振った。

「返事して?」

「嬉し、いの。ありがとう…。」

「幸せになろう。つぐみ」

二人の唇が重なった。

「綺麗な星空…。翼と見れて…幸せ」
「俺も…つぐみと見れて幸せだ」

すこし肌寒いのに、
心はあったかい。






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