真実の愛のカケラ
ノックもせずに勢いだけで扉を開くと、そこには父さんと祖父さんがソファーに座っていた。


焦る気持ちに反してこの部屋はゆっくりとした時間が流れている。


「柚希に何を吹き込んだんだ」


「第一声がそれか。
お前にも確認しておかなければと思っておったが、その手間が省けたようじゃ。


お前は自分が何をしたかわかっておるのか?
会社に関わる女など、どんな害を及ぼすかわかったものじゃない。
何度も言い聞かせておったのにまんまと引っ掛かりおって」


この年寄り、言わせておけば勝手なことばかり。
ぎゅっと拳に力が入る。


「言っておくが、俺が柚希と付き合うきっかけを作ったのは祖父さんだからな」


「なんじゃと?」


「どういうことだ、拓哉?」


言い出したら曲げない人だからな。
まずは聞く耳をもってもらわないと。


「修行とか言って俺をあちこちのレストランに送り込んだだろ?
その最後のレストランの向かいに住んでたのが柚希だった。
それから色々あって付き合うようになったんだけど…。

新店舗のプロジェクトに参加することが決まった頃だよ。
柚希がここの社員だって知ったのは。
もちろん柚希も俺の正体なんか知らなくて、ずっとフリーターだと思ってた。

柚希は、祖父さんが思ってるような金目当てで近づいてきた女じゃない。
もし、そう決めつけて柚希に酷いことを言ったんなら、俺は許さない」


特に意識はしていなかったが、最後の方は感情が乗っかって声のトーンが低くなる。
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