真実の愛のカケラ
…あれ?
思った以上に反応が薄いな。
何も言わないなんておかし…い…、あ。


手に握られたビールの入ったグラスがカタカタと音をたてている。
ただ静かにその感情を示そうとしているんだ。
全く穏やかではない、今にも爆発しそうなその感情を!


「あの、違います。
今日は本当にすぐ帰るつもりだったんです…。

いずれ、そういうあいさつができる機会を戴ければ、とは思っていますが…」


「えっ…」


隣で声が聞こえて勢いよくこっちに顔を向けた柚希と目が合う。


あ!しまった!
俺は何を言ってるんだ!
思ってるとしても、それはこのタイミングじゃないだろ!
俺が更にピリつかせてどうするんだよ!


弟のやっちまったなという哀れな眼差しが突き刺してくる。


「あの…」


俺の震えかかった声など気にも止めず、ビールを飲み干してガタンと空になったグラスを机に置く。


その音にすら怯んでしまう。
彼女の父親って、俺が想像していた何倍も恐ろしい存在だ。


そりゃそうか。
大事に育ててきた娘を奪われる思いだろうしな…。
< 213 / 240 >

この作品をシェア

pagetop