きみと駆けるアイディールワールド―青剣の章、セーブポイントから―
 バトルはあっという間だった。さすがに、みんな強い。
 妖志士を倒したら、風景がもとに戻った。日本家屋が並ぶ、夜の路地。蒸し暑さを思い出した。もともとスタミナのないミユメの体力が、ますます減っている。
 斎藤さんが刀を鞘にしまった。
「話が中途半端になっていたが。力場の件だ。魂と引き換えにチカラを得る輩がいる。この動乱の時代には、特に多い。普通の人間は、力場に引き込まれただけで弱る。力場で戦えるのは、力場を持つ人間だけだ」
 沖田さんが足下の黒猫を抱き上げた。黒猫が尻尾を揺らす。尻尾の先が二股に分かれていた。
「猫又、ですか?」
 沖田さんは屈託なく笑った。
「うん、猫又のヤミっていうんだ。ボクが魂を渡す相手だよ」
「えっ!」
「そんなに驚かないでよ。今すぐ魂を取られるわけじゃないんだし。ボクが今世の命を終えた後の話なんだから」
「亡くなった後に? じゃあ、魂を取られたらどうなるんですか?」
「魂っていうのは、永久に存在する。輪廻転生を繰り返しながらね。一方、命は今世限りのモノ。魂が今世に降り立ったときのカタチのことだよ。これで合ってるっけ、斎藤さん?」
 沖田さんの確認に、斎藤さんはうなずいた。どうやら斎藤さんのほうがいろいろと事情通みたい。アタシは斎藤さんに質問した。
「魂を取られたら、次は転生できないんですか?」
「ああ。転生も成仏もできない。孤独の牢獄に永久に囚われるか、闇に落ちて悪鬼と化すか。いずれにせよ、今世限りのチカラを得るために、その代価が永久に続くことになる」
 アタシは沖田さんを見た。沖田さんは無邪気にニコニコして、小首をかしげた。
「ボクに何か訊きたいの?」
「沖田さんも、チカラを手に入れるために、猫又さんに魂を渡してしまうんですか?」
「当然だろう。それ以外に何かあると思う? でも、実際、役に立ってるよ。力場の中で戦える人、新撰組には少ないから。斎藤さんとボクと、山南《さんなん》さんくらいかな」
 斎藤さんは、じっと冷静な目をしていた。
「そろそろ動こう、沖田さん。早く近藤さんと合流しなければ」
「あ、そうだったね。キミたちも来るでしょ?」
 沖田さんの口調は疑問形だったけど、行動はちっとも疑問形じゃなかった。沖田さんの大きな手がいきなり、制服姿に戻ったアタシの手首をつかまえた。
「えっ、あ、あの」
 斎藤さんが歩き出して、沖田さんも歩き出す。アタシも沖田さんに引っ張られて、連れていかれる。沖田さんが横目でアタシを見下ろした。
「ボクたち、これから討伐なんだ。倒幕派の志士が危険な計画を立てていて、一網打尽にしないと、京の町が危ない」
「あ、あの、手……」
 放してください。近いんです。カメラアイいっぱいに、沖田さんがいて。
 浅葱《あさぎ》色の羽織の肩。横顔は、思いがけず大人っぽくて男っぽい。カッコいい。困る。
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