きみと駆けるアイディールワールド―青剣の章、セーブポイントから―
第4章:ミユメ
☆環断 ワダチ
ログインしたら、みんなもう揃っていた。ラフ先生とシャリンさんとニコルさんが、新撰組の屯所でアタシを迎えてくれた。
「お待たせしました」
笑顔であいさつをする。うん、大丈夫。優歌の目は赤く腫れているけれど、ミユメはちゃんと笑顔だ。
部屋に沖田さんの姿は見えない。斎藤さんが刀の手入れをしていた。浅葱《あさぎ》色の羽織は、部屋の隅にたたんで置かれている。白いハトがくつろいだ様子で、とことこと部屋の中を歩いている。
斎藤さんが顔を上げた。
「池田屋への突入から、もう八ヶ月。早いもんだ。年が明けても、京は寒くてかなわん」
部屋には火鉢がある。アタシは水と氷の魔法に特化していて、寒さには強い。ラフ先生たちも防寒は万全で、対大気防御のアイテムを装備している。
屯所の庭では、隊士たちが剣術の練習をしていた。にぎやかな声が響いている。はだしで木刀を振りながら、汗びっしょりだ。
「新撰組、にぎやかになりましたね。池田屋事件の後に、もう一つ、大きな活躍があったんでしょう?」
アタシが言うと、うなずいた斎藤さんの頭上に選択肢のポップアップが表示された。斎藤さんルートのダイジェストムービーを見ますか、という質問だ。沖田さんルートで池田屋事件があっていたとき、斎藤さんルートでは別のエピソードが展開されていたらしい。
「どうする、ミユメ?」
ラフ先生の問いに、アタシは斎藤さんのほうだけ向いて答えた。
「お願いします」
ディスプレイが切り替わる。
エピソード名は、禁門の変という。池田屋事件で新撰組の実力が知れ渡って、それから一ヶ月ほどして起こった事件だった。
禁門というのは、天皇が住まう御所の門、という意味だ。
その事件は、京の町の中で起こった大戦闘だった。池田屋事件で倒した敵と同じ陣営の志士たちが、大挙して武装し、御所へと詰めかけようとした。新撰組は幕府から要請を受けて出陣。御所の禁門を背に守って戦った。
激しい戦いだった。鉄砲や大砲が火を噴いて、すさまじいエネルギーが両軍からぶつけられる。京の町の家々も燃えた。
新撰組を擁する幕府軍は勝った。新撰組の活躍も認められた。池田屋事件と禁門の変。この二つの戦闘での大手柄によって、新撰組は華々しく生まれ変わった。
斎藤さんは、口元を小さく微笑ませた。
「徳川の将軍と、会津《あいづ》の殿さま。ご両人から、たんまり褒美をもらった」
「会津の殿さま?」
「オレたち新撰組の直接の上司だ。『新撰組』の名付け親でもある」
「武士にも上司っているんですか?」
「当然だ。武家は将軍を頂点として、厳しい上下関係を定められている。そうした上下関係の固定化によって秩序を保ったのが、徳川幕府の治下の世の中だ」
ニコルさんが話に首を突っ込んできた。
「新撰組はもともと、その上下関係の厳しい武家社会からはみ出してしまった若者の集団だった。浪人といって、武家に生まれたけれども仕事のないゴロツキみたいな人もいたりしてね」
「あ、なるほど。はみ出し者ばっかりだったから、新撰組にはお金がなかったんですね」
「そうだね。沖田総司くんや斎藤一くんも貧しい家の出身だし、そのまま実家にいても、武士としての仕事には就けそうになかった。だから、同じような立場の、実力を示すことで仕事を得ようとするメンバーと一緒に、新撰組を盛り立てている」
ラフ先生がニコルさんの隣に立った。カメラアイにそれをとらえた途端、アタシは斎藤さんのほうに向き直った。ラフ先生の声だけは避けようもなく、ヘッドフォンから聞こえてくる。
「実力を示すことで出世っていうのがもう、動乱の時代だよな。二十一世紀の今とは違って、自由に仕事を選んだり、能力に見合うところで働いたりなんて、江戸時代のそれまでの社会だったら、考えにくかった」
「お待たせしました」
笑顔であいさつをする。うん、大丈夫。優歌の目は赤く腫れているけれど、ミユメはちゃんと笑顔だ。
部屋に沖田さんの姿は見えない。斎藤さんが刀の手入れをしていた。浅葱《あさぎ》色の羽織は、部屋の隅にたたんで置かれている。白いハトがくつろいだ様子で、とことこと部屋の中を歩いている。
斎藤さんが顔を上げた。
「池田屋への突入から、もう八ヶ月。早いもんだ。年が明けても、京は寒くてかなわん」
部屋には火鉢がある。アタシは水と氷の魔法に特化していて、寒さには強い。ラフ先生たちも防寒は万全で、対大気防御のアイテムを装備している。
屯所の庭では、隊士たちが剣術の練習をしていた。にぎやかな声が響いている。はだしで木刀を振りながら、汗びっしょりだ。
「新撰組、にぎやかになりましたね。池田屋事件の後に、もう一つ、大きな活躍があったんでしょう?」
アタシが言うと、うなずいた斎藤さんの頭上に選択肢のポップアップが表示された。斎藤さんルートのダイジェストムービーを見ますか、という質問だ。沖田さんルートで池田屋事件があっていたとき、斎藤さんルートでは別のエピソードが展開されていたらしい。
「どうする、ミユメ?」
ラフ先生の問いに、アタシは斎藤さんのほうだけ向いて答えた。
「お願いします」
ディスプレイが切り替わる。
エピソード名は、禁門の変という。池田屋事件で新撰組の実力が知れ渡って、それから一ヶ月ほどして起こった事件だった。
禁門というのは、天皇が住まう御所の門、という意味だ。
その事件は、京の町の中で起こった大戦闘だった。池田屋事件で倒した敵と同じ陣営の志士たちが、大挙して武装し、御所へと詰めかけようとした。新撰組は幕府から要請を受けて出陣。御所の禁門を背に守って戦った。
激しい戦いだった。鉄砲や大砲が火を噴いて、すさまじいエネルギーが両軍からぶつけられる。京の町の家々も燃えた。
新撰組を擁する幕府軍は勝った。新撰組の活躍も認められた。池田屋事件と禁門の変。この二つの戦闘での大手柄によって、新撰組は華々しく生まれ変わった。
斎藤さんは、口元を小さく微笑ませた。
「徳川の将軍と、会津《あいづ》の殿さま。ご両人から、たんまり褒美をもらった」
「会津の殿さま?」
「オレたち新撰組の直接の上司だ。『新撰組』の名付け親でもある」
「武士にも上司っているんですか?」
「当然だ。武家は将軍を頂点として、厳しい上下関係を定められている。そうした上下関係の固定化によって秩序を保ったのが、徳川幕府の治下の世の中だ」
ニコルさんが話に首を突っ込んできた。
「新撰組はもともと、その上下関係の厳しい武家社会からはみ出してしまった若者の集団だった。浪人といって、武家に生まれたけれども仕事のないゴロツキみたいな人もいたりしてね」
「あ、なるほど。はみ出し者ばっかりだったから、新撰組にはお金がなかったんですね」
「そうだね。沖田総司くんや斎藤一くんも貧しい家の出身だし、そのまま実家にいても、武士としての仕事には就けそうになかった。だから、同じような立場の、実力を示すことで仕事を得ようとするメンバーと一緒に、新撰組を盛り立てている」
ラフ先生がニコルさんの隣に立った。カメラアイにそれをとらえた途端、アタシは斎藤さんのほうに向き直った。ラフ先生の声だけは避けようもなく、ヘッドフォンから聞こえてくる。
「実力を示すことで出世っていうのがもう、動乱の時代だよな。二十一世紀の今とは違って、自由に仕事を選んだり、能力に見合うところで働いたりなんて、江戸時代のそれまでの社会だったら、考えにくかった」