きみと駆けるアイディールワールド―青剣の章、セーブポイントから―
 アタシは振り返った。斎藤さんがそこにいた。肩に白いハトが止まっている。シャリンさんとニコルさんも一緒だ。
「沖田さん、仕事だ」
 斎藤さんがこちらへ近付いてくる。
 と同時に。
「きゃあ、逃げるで!」
「お仕事やて!」
「邪魔したら斬られるんやで!」
「沖田センセ、さぃなら!」
 子どもたちが一斉に逃げ出した。
 沖田さんは、軽くなった手でポリポリと頭を掻いた。
「顔が怖いんだよ、斎藤さん。子どもたちの前では笑ってやって」
 斎藤さんはそっぽを向いた。
「この顔は生まれつきだ」
「まあ、確かに、整った顔立ちで目に力があると、子どもたちはどうしても怖がるけど。とはいっても、毎回こうやって逃げられちまうのはもう、一種の鬼ごっこだよなあ」
「鬼で悪かったな」
 沖田さんの足下に、いつの間にか、黒猫のヤミがすり寄っている。
「それで、ボクに仕事って何?」
 斎藤さんは一言、短く告げた。
「山南さんが脱走した」
 沖田さんの顔色が変わった。消し損ねた笑みに、口元が引きつっている。
「脱走? 冗談でしょ。山南さんが、そんな」
「冗談なんかじゃない。嘘でもない」
「信じられない」
「山南さんが新撰組を抜けた。今、居場所を確認してきた。土方さんがつかんでいた情報のとおり、山南さんは脱走して、もう京の町にはいない」
 脱走の話は前にも聞いた。新撰組は、逃げる者を許さない。新撰組を抜けた者に与えられる末路は一つ。斬る。
 アタシは沖田さんの蒼白な顔を見上げた。
「山南さんって、さっき子どもたちが言っていた人ですよね?」
「…………」
 沖田さんは応えない。斎藤さんが、代わりに応えた。
「新撰組総長、山南敬助。京の町へ出てくるより前、江戸の試衛館で過ごしていた時代からの同志だ。オレたちの兄貴のような人だ」
 沖田さんがパッと走り出した。斎藤さんを突きのけて、屯所へと駆け込んでいく。アタシはとっさに沖田さんを追った。
< 39 / 102 >

この作品をシェア

pagetop