きみと駆けるアイディールワールド―青剣の章、セーブポイントから―
 アタシたちは大坂に着くと、お城で近藤さんと合流した。
 近藤さんはケガのために戦陣に立てない。銃撃された体は、包帯でぐるぐる巻きだった。悔し涙を流していた。
「トシに全部、任せてきた。こんなときに局長のオレが動けんとは、情けないな」
 慶応四年の年が明けてすぐ、一月三日、鳥羽伏見の戦が始まった。
 旧幕府軍は、数の上では新政府軍を圧倒していた。でも、最初から押されていた。ラフ先生と斎藤さんが事前に話していたとおりだ。銃や大砲の性能が違いすぎる。
 伏見で、近江《おうみ》で、大山崎で、淀《よど》で、旧幕府軍はことごとく敗戦。
 新撰組は伏見で善戦したけれど、敵の新型兵器の火力に押され、撤退。散り散りにならずに大坂へ軍を返せただけでも、よく頑張ったんだと思う。
 一月六日、徳川の将軍と会津の殿さまが大坂を脱出し、船で江戸へ向かった。トップの二人が逃げ出したという知らせを受けて、旧幕府軍の戦線はついに崩壊。鳥羽伏見の戦は、新政府軍の圧勝で幕を閉じた。
 アタシたちは新撰組と合流した。土方さんも斎藤さんもケガをしていた。シャリンさんとニコルさんは疲れ切っていた。優しい源さんは、亡くなっていた。
「これからどうするんですか?」
 尋ねたアタシに、近藤さんが答えた。
「江戸で体勢を立て直す。新政府軍は、きっと江戸まで攻めてくる。そのとき、オレたちが江戸の町と将軍、そして会津の殿さまを守らないといけない」
 絶望的な未来図だと思った。でも、誰も反対しなかった。
 大坂の港から船に乗った。新撰組の生き残りはみんな満身創痍で、船の中で傷の治療を受けていた。
 沖田さんは、大坂に着いてからずっと、うとうとと浅い眠りの中をさまよっている。
 船室の片隅の暗がりで、斎藤さんが丸くなって眠っていた。いつも斎藤さんのそばをちょろちょろしている白いハトも、斎藤さんのそばにうずくまっている。
 シャリンさんは優しく微笑んで、綿入れ半纏《はんてん》を斎藤さんに掛けた。
「さすがに疲れたのね。斎藤が無防備に寝てるなんて初めてよ。いつも、近寄るだけで目を開けるのに」
 斎藤さんの寝顔はあどけなかった。薄い唇が少し開いている。
 アタシはシャリンさんの隣に座った。
「もうすぐクライマックスですよね。このステージは短編だから、倒すボスはあと一人だけのはずです」
「そうね。ハッピーエンドじゃなさそうね。でも、見守りたい」
「アタシもです」
 沖田さんや斎藤さんが、何を信じて戦っていくのか。最後まで、アタシも一緒に追いかけたい。
< 63 / 102 >

この作品をシェア

pagetop