プロポーズは朝陽を浴びて
 烈が「すみれちゃん」って呼ぶ声も、年上なのに一人称が「僕」なのも、彼らしい性格がでていて、一緒にいるとあたたかい気持ちになれる。

 そんな彼が「結婚しようよ」っていったら素直に信じられる?

 わたし、池井すみれは、ごく普通の社会人だよ。
 お付きあいしているだけでとんでもない奇跡なのに、結婚て!
 遊びじゃないとは言われていたけれど、彼の周りにはもっと美人でもっとスタイルのいい女性はたくさんいる。わたしは特別人目を引くような容姿ではないし、烈のいる環境を考えたら、いつ飽きられるのか常に不安は付きまとっていた。
 そこにきてプロポーズ。

 素直に受け入れられないわたしの心は歪んでるのかな……。
 そりゃわたしにだって独占欲はある。

 でも、烈に異性として好意を抱いてる女性やファンとして慕っている女子は、全国にたくさんいるわけで。
「わたしの烈くん」と一言でいえるような相手ではないんだよ。

 その烈との関係も、あのプロポーズを断ったことがきっかけになって、終わりに近づいているかもしれない。
 あの日以来、顔も見ていないし、声も聞いていない。
 メールすら来ていない。

 烈は怒っている。
 普段滅多に怒らないひとを、傷つけて怒らせてしまった。
 断って気まずくなってしまった手前、わたしのほうから連絡する勇気もでないまま、時だけが過ぎていく。
 今日も烈から連絡がない1日が終わる。

 自然消滅。

 いやな言葉が頭をよぎる。
 不安を感じたすみれは、膝を抱えてそこに顔を埋めた。

 ピンポーン!

 インターホンが鳴る音。顔を上げた。
< 2 / 12 >

この作品をシェア

pagetop