君が風邪を引いたら
 うつ向いて謝る蒼介は、まるで捨てられた子犬のようで、母性本能をくすぐった。
 これ以上触れていたら本能に負けてしまうと、半ば逃げるようにベッドから出ていく彼のシャツをとっさに掴む。着ているシャツの生地が引っ張られて、蒼介が振り向いた。
 わたしの言葉を待つ彼が、息をするのも忘れるくらい、必死な表情で見つめてくる。
 こんな顔されて、冷たくなんてできるわけない。
 わたしも、一緒にいたい。

「そばにいて」

「あ……でも、俺、我慢できないかもしれないし、君に無理させるのも嫌だ」

 わたしの言葉を、嬉しくもあり、困ってもいるみたい。
 目覚めた熱は、風邪のせいではない。
 蒼介の表情からも、同じ気持ちだということがわかる。

「……蒼介、来て。寒いの」

 わたしの言葉に、彼の瞳が欲望で翳った。
 目を閉じて待っていると、掛け布団が捲られ、ベッドを軋ませて蒼介が入ってくる。たちまち大好きな温もりに包まれた。

「俺が温めてあげる……」

 そして。
 甘い看病は続く。


 おしまい。
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