指先からはじまるSweet Magic
通りに面した大きな窓ガラスからは、開放的な店内の様子が熱気を帯びて伝わってくる。
そろそろ閉店も近い時間だけど、鏡台に面したチェアーはどれも若い女性のお客さんで埋まっている。


シャンプー台で髪を洗うのは、もっぱら若いアシスタント。
鏡越しに笑顔で会話をしながらハサミを軽快に動かすのは、サロンの中でも一握りのスタイリスト。
その手を離れて、お客さんは再びアシスタントにヘアブローをしてもらう。


流れ作業に身を任せながら、お客さんは美しく緻密に創り上げられていく。
そんな空間をぼんやり眺めながら、私はただ圭斗と例のアシスタントの姿を捜す。


いや、捜すってほど広い空間じゃないのに、圭斗の姿は見つけられない。


おかしいな。
木曜日の今日は、圭斗もサロンに出勤しているはずなのに。


そう思いながら、私は更に窓ガラスにへばりつくように中を窺った。


サロン一の人気スタイリストの圭斗は、サロン以外の仕事も多い。
顧客の芸能人に呼ばれてヘアメイクに出張していたり、雑誌の取材やカット技術の講師などなど……サロンにいない日も多くて、その分予約が困難な状況を作り上げている。


もしかして今日もどこか違う場所で仕事かな、と考えて、私は溜め息をつきながら窓ガラスから離れた。


その時。


「あのお~……。今日は無理ですけど、次回の予約お取りしましょうか?」


あまりにも怪しい私の行動に苦笑しながら、お店のドアを開けた男の子が顔を出した。
いきなり声を掛けられて、ビクッと肩が震えてしまう。
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