指先からはじまるSweet Magic
「あっ……、いえ、すみません!」


慌てて振り返って、勢い良く頭を下げた。


「私、お客さんじゃなくって……!」

「あ、じゃあ、誰かに御用ですか?」


そう言って首を傾げたのは、まだ若いアシスタントの男の子だと思う。
金色に近い茶色の髪が無造作に……だけどとてもカッコよくフワッと揺れる。
右手の人差指にゴツイシルバーのリング。
カジュアルだけどお洒落な服装が、圭斗にも通じるところがある。


どこもかしこも、私の周りのサラリーマンとはえらい違いだ。


「は、はい。えっと、圭斗……いえ、塩入さんは」


異空間に足を踏み入れたような頼りない感覚を足元に感じながら、私はオドオドとそう尋ねた。
途端に、え?と彼の表情が曇る。


「あ、えっと……塩入さんは、別棟で新人指導してます」

「え?」

「この裏に……うちの『研修施設』があるんです。今日は午後から指名もなくて、そこにいるはずですけど」

「そ、そうですか……」


ぎこちなく笑みを浮かべながら、彼の答えに納得して頷こうとした。


それでも感じる妙な違和感。
これから独立して自分の店を持とうとする圭斗に、午後から指名がないなんて、そんなことあるんだろうか。
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