指先からはじまるSweet Magic
「あの……。部外者の私が訪ねて行ってもいいのかな」


不安になって尋ねると、彼は肩を竦めてクスッと笑った。


「大丈夫ですよ。別に、見られて困るものもないし。それに、塩入さんのお知り合いだから」

「そっか。ありがとう」


改めて彼にお礼を言って、私はようやく不審者から脱却してサロンに背を向けた。


新人指導。
そうよね、そういう仕事ももちろんあるだろう。


早足で歩きながら、私はそう納得しようとした。
それでも一瞬感じた違和感は拭い去れない。


顧客になった香織曰く……圭斗は顧客でもなかなか予約が取れないってぼやいていた。


ヘアカットの為に訪れたその日に、次回、数ヵ月先の予約を入れる。
予定を変更しようものなら、更に数ヵ月待たなきゃいけなくなることも多い。
そんな圭斗に予約が入らず新人指導に割ける時間なんか本当にあるんだろうか……?


なんだか、妙な不安が心を過って、私は足を速めた。
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