指先からはじまるSweet Magic
「……ね、彼女。……良かったの?」

「ん? 彼女?」

「細川さん。……この後、約束してたんじゃないの?」


その場に立ち竦んだまま、なんとなく圭斗から目を逸らした。
圭斗はきょとんと目を丸くしてから、ああ、と呟いて無造作に前髪を掻き上げる。


「早く終わったらメシ行こうか、とは言ってたけど、別に約束してた訳じゃないし」

「そんな、簡単に……っ。圭斗はそれで良くても、細川さんはがっかりしたんじゃないの?」


なんで私がムキになってるんだろう。
自分でもよくわからない苛立ちで声を張り上げて、私は慌ててグッと唇を噛み締めた。
圭斗は、ポリッとこめかみを指で掻いてから、小さな溜め息をついた。


「なんか、誤解してる?」

「ただの誤解じゃないと思う。……彼女、独立した後も圭斗と一緒に働くスタッフさんでしょ?」

「まあ、そうなんだけど」

「彼女がどういう気持ちで圭斗と一緒にお店を辞めるか、とか、考えないの?」


私が本当に聞きたいことを、圭斗は微妙なさじ加減でかわしている。
それがわかるから、心が粟立って、圭斗に噛み付くように攻撃的な口調になってしまう自分が嫌だ。


非難めいた私の言葉に、圭斗もキュッと口を噤んで黙り込んだ。
そして、クシャッと自分の前髪を握り締める。


「……里奈。その先は、里奈には関係ない」


声のトーンを落として、急に素っ気なくそう呟くと、圭斗はフイッと私から目を逸らした。
< 37 / 97 >

この作品をシェア

pagetop