指先からはじまるSweet Magic
「何勘繰ってるのか知らないけど。……別に、何も出て来ないと思うよ。俺、ここ一年彼女いないし」


サラッと口にするその言葉に、一瞬ビクッと身体が震えた。
多分圭斗にも空気の振動で伝わっている。
そのまま黙っているのがあまりに居心地悪くて、私は膝の上でギュッと手を握り締めた。


「……でも、細川さんは……」


他に何を話題にすればいいのかわからず、考えなしにそう呟いてしまう。
慌ててグッと口を噤むと、圭斗が微かに苦笑するのが気配でわかった。


「俺だって、そこまで鈍くない。細川がどういうつもりで俺の店に来るって決めたかくらい、ちゃんとわかってる」


そんな静かな声と同時に、VOXYが減速し始めたのを感じた。


フッと顔を上げると、前方の信号が赤に変わっていた。
圭斗はほとんど車を揺らすこともなく、穏やかにブレーキを踏んだ。


「だから、スタッフとして育てる。同じ店で働くスタッフ同士の域を超えた付き合いはしてないし、これからだってもちろんしない」


静かに、だけどとても意志の籠った言い方。
その声に導かれるように、私はどこか躊躇いながら圭斗の横顔を見つめた。


「幸い、開店までは割と時間もあることだしね」


軽く肩を竦める圭斗の仕草に、さっき細川さんから聞かされた話を思い出した。
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