指先からはじまるSweet Magic
圭斗の辛さとジレンマを、すぐ隣で痛いくらい感じ取っていた細川さんには敵わない。
ズキズキと痛む胸を抑えながら、本気でそう思った。


「……圭斗、贅沢だよ」


頭の中グチャグチャで、口をついて出た言葉は、全く予想もしなかった言葉だった。
え?と圭斗が訝しそうに目を細めるのがわかる。


「あんな綺麗な子が、圭斗を支えたいって、そう思ってくれてるのに」

「……」

「彼女の好意に、気付いてるくせに」


前方の信号が、青に変わった。
一瞬ブレーキを緩めるのが遅れたVOXYに、後方から容赦なくクラクションが鳴らされる。
それを聞いて、圭斗はゆっくりアクセルを踏み込んだ。


その勢いを追い風にするように。


「じゃあ、里奈だったらどうするの」


苛立ちを隠したような、やけに冷静な声で、圭斗が私にそう訊ねた。


「ただの仕事仲間としか思えない相手にグイグイ踏み込まれたら、好きじゃなくてもグラッと来るの?」


そう聞かれて、思わずグッと言葉に詰まった。
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