指先からはじまるSweet Magic
キッと、アスファルトとタイヤが摩擦する音を聞いて、私はやっと顔を上げた。
そのまま顔を横向けると、圭斗はサイドブレーキを引いてからキーを捻ってエンジンを止めた。
車体が振動を止めて、圭斗はシートベルトを外す。


「お疲れ様」


そんな一言をサラッと告げて、圭斗が私を覗き込むようにわずかに身を屈めた。
一瞬近くなった距離にドキッとする。
私も慌ててシートベルトを外した。


「あ、ありがとう」


素っ気なくしか言えないお礼に、圭斗は、ん、と小さく頷く。
その態度だけ見れば、さっきまでの微妙な会話の余韻はどこにも感じられない。


ううん。感じられないどころか、圭斗の笑みで全部払拭されてしまったみたいだ。


私はグッと唇を噛んで、無意識に胸に手を当てた。
そして、そのままギュッと握り締める。


ぎこちなくてとても息苦しかったけど、ようやく少し圭斗の本心に迫った会話が出来た気がした。
その先に踏み込めなかったのは私が臆病なせい。


本当はもっと圭斗の考えてることを聞きたい。知りたい。
あのキスが、ただ男としての欲情に任せたものだったのか。
それとも……込み上げる衝動を抑えられない本能だったのか。


似ているようでいて、その本質は全然違う。
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