指先からはじまるSweet Magic
「……あ……」


助手席とドアの間にあるレバーから離した手で、圭斗がゆっくり私の頬を撫でた。
どうにも妖しい仕草に、ドクンと胸がざわめく。
身体はただこわばった。


「ほら、里奈。この状況で、里奈に何が出来るの?」


不機嫌さを隠さない声。
圭斗がどこか冷たく目を細めて、こんな体勢から更に身体の距離を狭めてくる。


「け、圭斗っ!!」


自分でも怖くなるくらい、心臓がフル回転している。
猛烈な危険を目の前にして、頭の中では警鐘が打ち鳴っている。
圭斗相手に。のんびりして穏やかでいつも優しい圭斗相手に。


圭斗に怯えて見開いた目を震わせながら見上げるしか出来ない私に、圭斗は容赦なく体重を預けて来る。
圭斗の前髪がフワッと頬をくすぐる。
反射的に大きく顔を背けると、無防備になった首筋に圭斗が顔を埋めるのがわかった。


「っ……! や、やだ、圭斗っ……!!」


断崖絶壁に追い詰められた時の、火事場のクソ力とでも言うんだろうか。
さっきまで強張って金縛りにあったみたいに動かなかった身体が、ピクッと動いた。
それに勢いを借りるように、私は両手で圭斗の胸をドンドンと叩いた。


眉間に皺を寄せて顔を上げた圭斗と、一瞬確かに視線が交わった。
その次の瞬間、私にかかる圭斗の重みがフワッと和らぐのを感じた。
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