指先からはじまるSweet Magic
その隙を逃さずに、私は力一杯圭斗の胸を押して身体の上から退かした。
圭斗が顔をしかめている間に、必死で助手席側のドアを開けると、私は転がり落ちるように圭斗のVOXYから降りた。


「里奈っ……」


圭斗の声が追って来る。
それを断ち切るように、私は大きな音を立ててドアを締めた。


そして、振り返る余裕なんかないまま、一心不乱に門に駆け込んだ。
急いで家のドアを開けて、細い隙間から身体を滑り込ませる。
そのまま大きくバタンと音を立てて、ドアを締めた。


肩で息をしながら、全身から力が抜けるのを感じた。
私はドアに背を預けて、そのままズリズリとしゃがみ込んだ。


気持ちはいっぱいいっぱいで、何が起きたのか冷静に思い起こせない。
ただ無意識に首筋に手を当てて。


「っ……」


そこに確かに感じた圭斗の吐息の感覚を思い出して、両手で顔を覆った。
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