指先からはじまるSweet Magic
「圭斗君忙しくなっちゃったから、甘えられなくなったんでしょ?」


指定された時間ぴったり。
東京駅の八重洲側地上出口。


お疲れ、と声を交わした途端に、香織がニヤニヤ笑いながらからかってきた。
一瞬、相談しようと思っていた話題を出す前に見抜かれたような気がして、ギクッとする。
でも香織が軽く私の髪を揺らして来たから、そういう意味か、とホッとした。


「いくら里奈の幼なじみ特権でも、さすがに今は対応してもらえないか」

「……そんなに違う?」


お店を探して歩き出しながら、排気ガスと騒音に包まれた大通りに踏み出す。
通りのショップのショーウィンドウに映る自分に目を向けて、軽く覗き込みながらそう訊ねた。


「そりゃ、違うでしょ。プロに定期的にケアしてもらえるなんて、どこの芸能人だ、って感じだし」


信号待ちの群れに混ざりながら、香織に鼻息荒く言われて、私もさすがに肩を竦めた。


「そうだよね。……甘え過ぎだったよね、私」


自己嫌悪に陥りながら、自分でもなんとなく毛先を摘んだ。


触れば嫌でも感じる。
パサパサで纏まらないし、圭斗じゃないけど髪が可哀想だと自分でも思ってしまう。
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