指先からはじまるSweet Magic
向かい合った窓の向こうに明かりが灯ると、すぐそこに圭斗がいるってわかったから、カーテンをしっかり締めて極力窓に背を向けた。
ほんのわずかな気配にも敏感になってしまうくらい、神経の全部が圭斗の部屋の窓に向いていたのに。
それを誤魔化すのに精一杯だった。


そう、本当は気になって気になって仕方なかった。
だから、この数日、圭斗が部屋に帰って来てないことも知っていた。


あんなことの後だし、圭斗も私を避けてるのかもしれない。


そう思って妙なジレンマを感じていたけど……。
そうか。オープンがそんな間近に迫ってるなら、圭斗はすごく忙しいはずだ。


私のことなんか頭になかったのかもしれない。
自分の店のことで頭が一杯で。


そう考えると、なんだかとても悔しい。
私がこんなに圭斗のことばかり考えてしまうのは、全部圭斗のせいなのに。


八つ当たりに近いやさぐれた気分で、私は心の中だけで圭斗を罵った。


圭斗が突然キスなんかするから。
あんな……見たこともない男の目を向けたりするから。


だから、私も自分の気持ちがわからなくて。


「……っ……」


なんだかよくわからない感情が、胸に込み上げて来る。
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