指先からはじまるSweet Magic
途端に後ろからドンとぶつかられて、一瞬身体が前のめった。
慌てて顔を上げると、歩行者信号がいつの間にか青に変わっていた。
人の群れが動き出していて、私を追い越したバーコード頭のオジサンが迷惑そうに私を振り返って舌打ちしていく。


「里奈? どうしたの?」


横断歩道の真ん中で立ち止まった香織が、不思議そうに私を振り返った。


「あ……。ううん」


取って付けたような返事を返してぎこちなく笑うと、私はギュッと握った手を胸に当てて、小走りで香織に追い付いた。
そんな私に、香織は小さく首を傾げている。


「あ、この間先輩とランチに行ったお店がね、ディナーも割と良さ気だったんだ。ここから近いし、そこ行かない?」


ようやく隣に並んだ私に、香織はそう言った。


「食事もおいしかったし。悪いけど私、今お酒アウトだからさ」


横断歩道を渡り切って、軽くお腹を摩りながら香織が付け加えた言葉に、私も笑顔を作って頷いた。


「香織、今大事な時期だもんね」


見た目には全然わからないけど、香織は今妊娠三ヵ月の妊婦さんだ。


なんて言うか、ここまでとんとん拍子に幸せな家族を作り上げて行く香織をすごいと思うし、やっぱりちょっと羨ましい。
< 57 / 97 >

この作品をシェア

pagetop