指先からはじまるSweet Magic
「そうなんだけど……。なんて言うか、我慢しなきいけないこと多過ぎてストレスよ~。昨夜は些細なことで旦那と喧嘩したし」


軽く顔を上向けてハアッと大きく息をつく香織に、私はただ肩を竦めた。
そんなこと言いながらも、香織はちゃんと幸せそうで。


「大事にしなよ。せっかく圭斗の魔法で掴んだ幸せなんだから」


サラッと言った自分に、私自身がびっくりして、そのまま口を噤んだ。
香織は私の様子に気付くことなく、そうね、と言いながらお薦めのお店に足を向ける。


「そんな圭斗君の魔法を独占してるんだから、里奈は本当に贅沢だよ」


予想通りの言葉が返って来て、私の心はチクッと痛んだ。


香織の言う通り、私は最高な贅沢に甘えていた。
ただ幼なじみってだけで。ずっと隣の家に住んでるっていうだけで。
特権、なんてもらえる関係じゃなかったのに。


高校卒業後……。
お互いに進む進路が全く別々になったから、そのままなんとなく圭斗とも疎遠になった。
ただ流されるように普通のOLになった私と違って、圭斗は自分の腕と能力で道を切り拓いた。
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