指先からはじまるSweet Magic
メトロの駅から、『ニューミストラル』は徒歩でせいぜい二、三分といったところ。
それでもそのガラス貼りのゴージャスな外観を目に立ち止まった時、時計はもう八時半を過ぎていた。
ここから窺い見るだけでも、この間と比べてお客さんの姿が少ないのは一目瞭然だった。
もしかして、圭斗はもういない……?
ツキンと胸が痛むのを感じながら、私は荒い息を必死に抑え込んで、ゆっくりサロンに近付いて行った。
それと同じタイミングで。
「じゃ、お世話になりました」
突然ドアが大きく開いて、店内に声を掛けながら出て来るその姿に、私はビクッと足を止めた。
素っ気ない言葉だけど、少しだけ見える横顔には穏やかな笑みが浮かんでいる。
開いたドアの向こうに、見送る為に集まった他のスタッフの姿がいくつも見えた。
「あ……」
『ニューミストラル』トップスタイリスト、塩入圭斗の、華々しい有終の美。
華奢なのにすごく広く見える背中を見送るスタッフは、笑顔と泣き顔が入り混じっていた。
圭斗の腕には、抱え切れずに零れるほど大きな花束が揺れている。
上腕にはお餞別なのか、いくつもの紙袋。
そして圭斗が向ける笑み。
細川さんに聞いた陰湿な嫌がらせも嘘なんじゃないかと思えるほど、圭斗は清々しい表情を浮かべていた。
それでもそのガラス貼りのゴージャスな外観を目に立ち止まった時、時計はもう八時半を過ぎていた。
ここから窺い見るだけでも、この間と比べてお客さんの姿が少ないのは一目瞭然だった。
もしかして、圭斗はもういない……?
ツキンと胸が痛むのを感じながら、私は荒い息を必死に抑え込んで、ゆっくりサロンに近付いて行った。
それと同じタイミングで。
「じゃ、お世話になりました」
突然ドアが大きく開いて、店内に声を掛けながら出て来るその姿に、私はビクッと足を止めた。
素っ気ない言葉だけど、少しだけ見える横顔には穏やかな笑みが浮かんでいる。
開いたドアの向こうに、見送る為に集まった他のスタッフの姿がいくつも見えた。
「あ……」
『ニューミストラル』トップスタイリスト、塩入圭斗の、華々しい有終の美。
華奢なのにすごく広く見える背中を見送るスタッフは、笑顔と泣き顔が入り混じっていた。
圭斗の腕には、抱え切れずに零れるほど大きな花束が揺れている。
上腕にはお餞別なのか、いくつもの紙袋。
そして圭斗が向ける笑み。
細川さんに聞いた陰湿な嫌がらせも嘘なんじゃないかと思えるほど、圭斗は清々しい表情を浮かべていた。