指先からはじまるSweet Magic
「私、圭斗に甘えっぱなしで……本当に、ごめんなさい」


軽く振り返りながら頭を下げると、見上げた圭斗が瞬いていた。


「それから……。私、圭斗を責めるだけだった」


俯いてそう付け加えると、あ~、と圭斗が気まずそうに顔を上げた。


「それは……ごめん。当たり前だって思う。……俺、ちゃんと言ってなかったんだし」


ボソッと唇の先で呟いて、圭斗は再び私の髪を一房摘み上げた。


その職人業の鋏捌きで、伸ばしっ放しでバサバサの私の髪を、信じられないくらい綺麗に創り上げていってくれる。


「けど……。誓って言う。俺があんなことしたのは、里奈だからで」


どこかぶっきら棒な口調で、圭斗が呟く。
照れ隠しなのか、滑らせる鋏のスピードが増したような気がした。


「里奈にじゃなきゃ、いくらなんでも、あんなこと……」

「わかってる」

「え?」


言葉を遮った私に、圭斗が一瞬手を止めて、鏡越しに私を見つめて来た。
その瞳に……ドキドキする鼓動を意識しながら、私は一度大きく胸に酸素を吸い込んだ。


「『Angelina』」

「っ……」

「この店名は……ここ一ヵ月で決めたものじゃないよね?」


私の手元にあるハガキに記されていたロゴ。
それはもちろんデザイナーに依頼して作ったものだろうし、そんな短期間で出来上がるとは思えない。


そして、初めて足を踏み入れたこのサロンにも……。
金色の、繊細な飾り文字のロゴが印刷されたパンフレットやメンバーズカードが、端っこに積み上げられていた。
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