指先からはじまるSweet Magic
「その頃は、こんな店名の意味も、里奈が知ることはないって思ってた」


フウッと息をつきながら、圭斗は隣に引き寄せた真新しいワゴンの上に、そっと鋏を置いた。
そして、鏡の中の私を真剣な瞳でジッと見つめて来る。


「……知ってもらえるように、頑張ろうって……。それがずっと目標だったんだけど……」


鏡越しに目を合わせると、圭斗が先に目を伏せた。


「知られると、どうしようもなく照れる……」

「わ、私、嬉しいよっ……?」


思わずそう言い募って、再び圭斗を振り返った。
圭斗は左手で大きく顔を隠している。


「香織に言われて、小学校の時の文集読んで思い出したってとこが申し訳ないけど……。圭斗が美容師になった理由って……」

「~~っ!! ああ、そうだよっ! 俺はずっと前から里奈のこと好きだったからっ……!!」


やけくそのように繰り出された言葉なのに、ストレートに私の心に突き刺さった。
ドクンと胸が高鳴って、私はただ真っ直ぐ圭斗を見つめてしまう。


そんな視線を感じているのか、圭斗は顔を俯けたまま……。


「っ……!?」


私を、後ろからグッと抱き締めた。
そして、私の髪に額を埋めて、ボソッと声を出す。


「……覚えてる? 昔よく、お姫様ごっこしたこと」

「う、うん……」


背中と肩に温もりを強く感じながら、私は自分の胸に手を当てて、なんとか短い返事を返した。
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