モテない俺は顔が悪い訳ではない。
「小学校5年生の頃に、引っ越しちゃったの。」
懐かしそうに、でもどこか切なげに語る母さんを、俺はなんだか見ていられなくて目を背ける。
「あんたは…、忘れちゃったからね。詩織ちゃんのこと全部。」
ただ、胸が痛くなるのを感じた。
「聞きたい?この話。」
聞きたい…。正直その気持ちの方が強かった。でも俺は……
「いや…。」
頭を横に振る。
「そう。自分で思い出さなきゃね。」
俺はこくんと頷いた。
「あんた…会ったの?詩織ちゃんに。」
「ああ。最近、一緒にいるよ。」
「あらそうなの?付き合ったら家に連れてきてね。」
母さんのその言葉に、自分の顔が熱くなるのを感じる。
「ふふ。好きなのはあの頃とかわらないのね。」
「え?!」
母さんはそれだけ言うと、買い物に行ってくると言って部屋を出て行った。