初恋の甘い仕上げ方
それに構わず、私は続けて想いを口にする。
「あの事故を思い出すから、翔平君は傘を見るのが嫌で雨も苦手になった。見た目はいいし仕事もできて、誰が見ても格好いい翔平君の唯一の弱点。それを翔平君が気にしてるのも知ってるけど。そんなちっちゃなこと、関係ないのに。私は翔平君がこうして生きていてくれることに感謝してる」
「生きてるって、それは大げさだろ」
翔平君は、私の背中をポンポン叩いて小さく笑うけれど、私にとっては大げさでもなんでもない。
あの事故で私は希望していた企業への就職を断念したけれど、そんなこと、翔平君が無事でいてくれたことに比べればどうってことない。
もしもその気があれば、自動販売機の設計ができる別の会社を探して採用試験を受けることだってできたはずだ。
けれど、翔平君が無事だと知った途端そんなことどうでもよくなった。
そして、自分は翔平君から離れてまで貫きたいほどの強い思いは持ち合わせていないと気づき、案外悩むことなく今の事務所への就職を決めた。
けれど、翔平君は希望する就職を断念させた私に申し訳なく思い、気に病んでいるけれど、私はこうしてふたりで笑っていられるだけで、それだけでいいのだ。
もしもあのとき、翔平君に向かってきた傘があと数センチずれていたら、翔平君はよけきれないまま階段を転げ落ちたかもしれない。
打ち所が悪くて取り返しのつかない大怪我をしていたかもしれないし、命を落としていたかもしれない。
その可能性を考えると、今でも怖くてたまらない。
翔平君がいない世界なんて、想像するだけで体が痛みを覚える。