初恋の甘い仕上げ方
「何かいいことでもあったのか?」
小椋君が訝しげな声で聞いてくる。
視線を向けると、おかしなものでも見るような目で私を見ていて、逆に私のほうがおかしくなってくる。
よっぽど私はにやけた表情を浮かべているのだろうと気づき、真面目な表情を作ってみるけれど、それは一瞬の努力にすぎなくて、すぐに頬が緩んでしまう。
「『ルイルイ』のフルーツタルトでも食べたのか? 三食それでも大丈夫だっていつも言ってるだろ?」
「あー、そうだね。三食でも大丈夫なんだけど、というより是非ともお願いしますってぐらい大好きだけど……」
だめだ、大好きって言葉を思い浮かべた途端、翔平君を思い出してうまく表情が作れない。
職場で見せるにふさわしい顔にしなければと焦りつつも、上がった口角を元に戻すことすらできず。
「ルイルイよりももっと、嬉しいことがあったからね。……これ以上は黙秘権を行使しますので、仕事に戻ってください」
「はあ? もっと? って、もしかしたらオトコでもできたか? そういえば見合いするとか言ってなかったっけ?」
私の言葉に驚き、小椋君は椅子の背もたれに預けていた体を起こすと、その顔を私に近づけた。
小学生のときから見知ったその顔は、『綺麗』という表現がふさわしく、女性に間違えられることはないにしても、女性が羨ましがるには十分すぎるほど整っている。
坊主頭の野球少年が、どうしてこうも格好よく成長したのかと、同窓会のたびに話題になっているけれど、中学、高校を同じ学校に通っていた私でさえ答えられない不思議のひとつだ。
「見合いは週末だったよな。で、昨日はそれに備えてエステに行くって早く帰ったし。そうだよな、まさかひと晩で男を作るなんて早わざ、持ってないだろうし」
「早わざ?」
そんなの手持ちの得意技の中にはないけれど、男を作るという意味を考えれば、たしかに昨日は私が長年追いかけ続けていた男性と気持ちを通い合わせることができた記念すべき日だった。